女性差別と映画

先日発表されたEWA調査報告書の著者であるブリジット・ロレは、映画界には女性の進出を阻む壁が数多くあることを明らかにしました。しかし認識が進み、人々が発言するようになった今、状況は良くなっていくと考えています

Brigitte Rollet
Researcher

映画界における性差別問題の専門家として、女性監督の進出を阻む壁とは主に何だと考えますか?

これには主に3つの問題があります。第一に、金銭的な問題です。まず報酬が平等かどうかという点に注目してみると、男性監督と女性監督の報酬は35%から40%もの差があり、さらにこの状況にはほとんど変化がありません。また、資金調達の問題もあります。クリエイティブな産業の中でも、映画製作には他とは比べ物にならないほど巨額の資金が必要ですが、プロデューサーは女性監督に多額の予算を掛けることを嫌がります。2017年に米国でヒットした500作品のうち、女性が監督した映画はほんの18%です。トップ100に限れば、8%にまで下がってしまいます。一方、ケリングが欧州7か国と共同で運営しているEuropean Women’s Audiovisual Network(EWA)の最近の調査では、助成金において、男性と女性の映画製作者には大きな隔たりがあることが指摘されました。例えばフランスの助成金のうち、女性が与えられた額は17%に過ぎず、残りの83%は男性が手にしています。それに対し、スウェーデンでは国の助成金配分に際して完全な男女平等規範が設定されています。

女性監督が直面するもう1つの大きな壁は、女性には権威がないと見られていることです。一般的に撮影記録を取るスタッフの99%は女性ですが、照明やグリップポジションなどの技術スタッフの99%は男性が占めています。このように技術スタッフに男性が過剰であることが、女性はカメラを回す側にいるべきではないことを裏付ける理由として、議論に使われることが往々にしてあります。そこには監督に必要とされる権威が女性にはないという間違った考えが根底にあるのです。

3つ目の壁は、女性監督は「ヒット作を生む監督」ではないという考えです。そのためこの業界に進もうとする女性の多くは、最低の予算で済む「主義主張を表現する」映画だけを作ろうとしがちです。女性に権威や専門知識がないという偏見は、映画界だけに限らず他の分野、特に政治の分野であっても状況は変わりません。

女優はどのような問題に直面していますか?

女優はまた違った問題を抱えています。それを理解するには、映画の原点に戻る必要があります。つまり、映画は男性が男性のために作り、女性は男性を誘惑する役柄しか与えられなかったということです。男性のための「ドリームファクトリー」だった映画産業草創期の意識は今でも残っており、誘惑することだけが女優の存在意義だという考えを始め、象徴的な壁が無意識のうちに作られているのです。

女性の役柄に多様性が欠如していることは、多くの女優が経験してきたことです。ジョディ・フォスターもその1人ですが、型にはまらない複雑で新しい人物像を作り出すため、今ではカメラを回す側に立っています。このような努力が実を結び、限定的ですが、ベクデル・テスト(ジェンダーバイアス測定のために用いられるテスト)を取り入れて女性の役柄の重要性や解釈を評価し、女性が作り上げた役柄がテストに合格することも多くなっています。女性監督の大部分が、典型的な女性像ではない女性にスポットライトを当て始めています。映画界で女性たちが行動し始めたことで生まれた変化にはまだ紆余曲折がありそうですが、女優から転身した監督の中には結局お決まりの女性像を描いて終わる人もいます。

映画界で女性が直面してきた壁は、近年どのように変化していますか?

大きな変化が起こり始めています。間違いなく、新たな意識が生まれつつあるのです。映画界で女性たちが直面してきた問題は、この狭い業界の垣根を越えて語られるようになり、女性にとって別世界の話ではないと認識してもらえるようになりました。何が違うかというと、例えば、現在フランスでは、映画にも影響を与えてきた最近の不祥事について、本筋とは異なる問題に疑問が投げかけられ始めています。このような変化が多くの人々の不満を掻き立て、#MeToo運動へとつながり、次には一般に大きな影響力のある映画界が社会に新たな変化と前進を生み出すようになっていくでしょう。

映画界で男女平等を実現していくには、何が必要ですか?

まず、数に注目するだけでなく、行動をすることです。世界的に見て、映画学校を卒業する生徒は男女同じ人数ですが、女性監督は今でも男性より少ない人数しかいません。これは明らかに、途中で辞める女性がいるからです。この点を重視し、何か対策を実施する時が来ているのです。スウェーデンが男女平等に公的な助成金を得る仕組みを作れたのなら、私たちにもできないことはありません。

また、公共団体、学校、映画界の訓練プログラム、さらには回顧展などで女性の映画に関する認知度を高める必要があります。そうすることで人々に女性の映画を広め、疑問のあることを考えてもらうことができるはずです。例えば、女性監督として史上最も多い15作品を世に送り出したドロシー・アーズナーがほとんど知られていないことは、恥ずべき事ではないでしょうか。

カンヌ国際映画祭のパティ・ジェンキンスに対する賞についてどう思いますか?

映画『ワンダーウーマン』を製作したのは女性だという事実がメディアで語られることは多くありませんでしたが、彼女の受賞は本当に素晴らしい出来事です。パティ・ジェンキンスに対する賞は、まさに大変革をもたらしました。プロデューサーや意思決定者に対して、女性でも大ヒット映画を作るという快挙を成し遂げることができることを示したからです。