「ジュエリー界におけるカスタマー・エクスペリエンス改革の必要性」

昨年12月、ヴァンドーム広場26番地にあるブシュロンの伝説のブティックが18カ月間に及ぶ改修を経てリニューアルオープンしました。ブシュロンの最高経営責任者であるエレーヌ・プリ=デュケンは、この一大プロジェクトは、リノベーションと共にジュエリー界における旧来型のカスタマー・エクスペリエンスの考えを一新する目的も掲げていると語ります。

Hélène Poulit-Duquesne
CEO - Boucheron

ヴァンドーム広場26番地を改修するにあたって、どんな課題がありましたか?

まずこのブティックは12年間も改装が行われていなかった為、ブシュロンの現在のアイデンティティとモダニティを反映した店舗とは言い難くなっていました。ブティックの他、300年近くリノベーションが行われていなかった、ノセ邸の徹底的な修復も実行しています。この建物を以前の荘厳な姿に戻す作業は、歴史的記念物の建築家であるミシェル・グタールに依頼しました。一方でインテリアデザイナーのピエール=イヴ・ロションは、このユニークで歴史的な建物に現代的でエレガントな雰囲気をもたらしてくれました。本リノベーションの課題は、ビジネス面のみではなく、私たちのアイデンティティをより深く表現する事でした。最終的には伝統と現代性の融合を成功させ、このブティックはブシュロンのイメージ通りに仕上がりました。

ブシュロンでのカスタマー・エクスペリエンスは今後どのように変わるでしょうか?

他のヴァンドーム広場のビッグメゾンとは異なる、親密で温かいカスタマー・エクスペリエンスを提供したいと考えています。これまでも顧客の方々との関係は家族的で温かみのあるものであり、そのような点でブシュロンは常に独特であり続けてきましたが、ハイジュエリーに対するある種の距離感を払拭させる時が来たのです。私たちは、お客様にまるで個人の邸宅にいるかのような気持ちになって頂けるような接客を更に追求したいと思いました。つまり、ヴァンドーム広場26番地のブティックを訪れる誰もが友人宅に温かく迎え入れられていると感じて頂けることが目的なのです。それはお客様一人一人に対する細やかな配慮であり臨機応変な対応なのです。ブティック内には居心地の良いラウンドテーブルを置き、スタッフの制服もより動きやすくモダンなものへと変更しました。どれも小さな変化ではありますが、これまでの行動規範を変えるという私たちのビジョンを表しています。最後に、究極の体験をご紹介します。これは特別な顧客向けとなりますが、ブティックの3階に作られたアパルトマンでは、休憩をとったり飲み物を楽しんだり、更にはご宿泊も可能になりました。

世界中のブティックで、このアプローチをどのように展開していくのでしょうか?

パリ、ロンドン、上海、世界中のどこにいる方々に対しても、同じカスタマー・エクスペリエンスをご提供したいと思っています。ヴァンドーム広場26番地で実施した全ての成功体験は、徐々に各国各地で展開されるようになっています。これには販売接客方法、ブティックのスタッフが着用する制服、そして接客時に細部にまで配慮する姿勢も含まれます。ノセ邸の改装と並行して、全店舗用に新たな店舗コンセプトも検討しました。ル・コアディクとスコットという二人の才能豊かな若手建築家にノセ邸の改装時と同じビジョンに基づいた全店共通の店舗コンセプトを持つ改装工事を依頼しました。そのコンセプトは、店舗にある二つの空間を作り、ファミリーとして全店共通する空間とそれぞれの店舗の個性を出す空間を設ける事です。同じコンセプトで改装工事に取り組んだその結果は、ヴァンドーム広場の世界観を明確に反映するものでした。建築にはヴァンドームと同じパリ製石材と緑の大理石を使用し、セールス・スペースのデザインはよりアットホームな環境を作るために、VIPルームにそれぞれのお店の個性を表現しました。一部にはラウンドテーブル、その他にはオーバル型のテーブルを設置しました。この計画は段階的に展開しており、現時点ではすでに10店舗のリノベーションが完了しています。お客様が世界のどこにいようと、ブシュロンブティックの共通コンセプト、そして、スタッフの温かさやおもてなし、つまりブシュロン・エクスペリエンスを感じていただくことがこの計画の最大の目的です。

あなたが思い描く、ブシュロンの女性像は?

自分自身のジュエリーを購入するのは女性です。女性は物でもなければお姫様でもありません…。自分の行動を正当化する必要のない、自由な女性です。自分自身を表現できるジュエリーを求めて、 金庫にしまいこむためではなく、身に着けるためにジュエリーを購入する、そんな自立した女性がブシュロンには来店されます。ジュエリーの選び方は女性の個性そのもので、女性自身がそのジュエリーを生き生きと輝かせるのです。これこそが、ヴァンドーム広場26番地で2016年に企画したショーのポイントでした。ジュエリーとは女性を輝かせるオーナメントであるということを証明する為、このショーは、ジュエリーを胸像に飾ることをせず、代わりに全世代の女性がジュエリーを身に着けました。女性たちの日常生活に再びジュエリーをもたらすことは、私たちの目標の一つになっています。