「ケリングは変化の担い手になれる」

製品のトレーサビリティ、サステナブルなサプライチェーン、次世代の素材……ケリングのチーフ・サステナビリティ・オフィサー兼国際機関渉外担当責任者であるマリー=クレール・ダヴーが原料の生産方法をはじめ、環境フットプリントを削減するためにケリングが実施しているアプローチについて語ります。

ケリングが環境フットプリントを削減するうえで、もっとも対策が必要なところはどこでしょうか?

ケリングが環境に与える負荷のうち93%が、サプライチェーンの活動から生じています。これはケリングが、環境フットプリントを数値化し、意思決定の指標とするために作成した環境損益計算書 (EP&L)という報告ツールによって明らかになったことのひとつです。ケリングが環境に与える負荷の半分は、原材料(革、織物繊維、貴金属)の生産、あるいは抽出という、ごく初期の段階で発生しています。だからこそ、集中的に取り組む必要があるのです。2016年に私たちは、2025年までに環境フットプリントを40%削減する、という目標を設定しました。そのうち半分については目途が立っています。残りの20%を達成するにはイノベーションが必要不可欠です。今よりも更に効率的な生産工程を開発し、環境への負荷が少ない素材を見出す、あるいは全く新しい素材を作り出さなければなりません。いずれにせよ、こうした努力は実を結びつつあり、2015年から2018年にかけてケリングはすでに、環境フットプリントを14%減少させています。

すでに実施している施策について具体的に教えてください。

私たちにとっての最優先事項は原材料のトレーサビリティです。トレーサビリティなくして本当の意味で環境に配慮した方針を打ち出すことは不可能です。我々はすでに、2017年には83%だったトレーサビリティの数値を、2018年には91%に向上させています。

また、細かい基準を明確にするのも基本的な課題のひとつです。2018年1月にケリングは、各ブランドとサプライヤーに向けて、重要な原材料に対し一連の環境的および社会的指標を設けた「ケリング・スタンダード」を発表しました。2019年3月には、動物福祉に特化した基準も追加しました。具体的な例を挙げますと、ケリングが使用する原材料をよりサステナブルなものにするため、モンゴル産カシミア、ニュージーランド産ウール、中国産シルクのように、ひとつひとつの重要な原材料に特化したプログラムをそれぞれ設定しています。またこれはケリングのマテリアル・イノベーション・ラボ(MIL)のミッションでもあります。2013年に発足したMILは、現在各ブランドに3000種近いサステナブルな生地や織物のサンプルを提供しています。2020年には2つ目のMILが開始され、高級時計とハイジュエリーブランド向けに、貴金属のサプライチェーンを拡大します。最終的には、サプライヤーとの交わす全契約にサステナビリティに関する条項を入れ、そのためのプロセスや資材にサプライヤーが対応できるようにします。

ソーシング(調達)における各ブランドとの取り組みについて教えてください。

ケリングは極めて重要なサポート役を担っており、私たちは各ブランドと密に連携しながら取り組んでいます。各ブランドは、環境への負荷を40%削減するための個別の計画図を持っています。ケリングのサステナビリティ・チームは、それぞれのブランドにとって最良の実践モデルを特定し、実施できるようサポートし、特定のエリアに特化した手法や作業チームも誕生しました。たとえば、6週間ごとに「サステナビリティ・ネットワーク・ミーティング」という場を設けており、ここではブランドとグループが斬新な解決策や最優良事例について議論します。2019年6月末には、ブランド代表者と80人のイタリアの革なめし職人をミラノに集め、私たちが理想とする品質のメタルフリーレザーに関するプレゼンテーションを行いました。

先ほど、ケリングが環境に与える負荷の「残りの20%を達成するにはイノベーションが必要不可欠です」と話していましたが、見通しはいかがでしょう?

イノベーションは必要不可欠です。私たちが2025年を目標に掲げるサステナブルな発展のための戦略のすべてがそこにかかっています。だからこそ、私たちは「プラグ&プレイ-ファッション・フォー・グッド」を立ち上げました。これはアムステルダムを拠点とするインキュベーター(起業支援事業者)との取り組みで、革新的なスタートアップ企業のための発展プログラムを通じてファッションと繊維業界における社会的・環境的イノベーションを支援するものです。

さらに、2018年12月には「Kジェネレーション・アワード」という、サステナビリティ界で活躍する中国の革新的なスタートアップ企業をスカウト、支援するための賞を設けました。受賞者は、2019年10月の上海ファッションウィークで発表される予定です。ケリングは、ラグジュアリーグループとして初めて、中国におけるサステナビリティへの取り組みを行います。これは非常に重要なことを意味しています。ラグジュアリーは大量生産できるものではありませんが、強い影響力を持つものです。ケリングは正真正銘の変化の担い手になれるのです。

これまでのことを踏まえて、次回開催予定のG7ビアリッツ・サミットで発表される「ファッション協定」の狙いは何だと思いますか?

2018年4月にフランスのエマニュエル・マクロン大統領がケリング会長兼CEOのフランソワ=アンリ・ピノーにこのミッションを託しました。「ファッション協定」の目的は、環境保護を掲げる様々な目標に取り組む企業連合を立ち上げることです。具体的な解決策を実施することで、国だけでなく民間企業も地球を守るための重要な役割を担っている!と証明することができます。

「ファッション協定」の意義はそこにあります。公共・民間協力の優れた例として、私たちが直面する21世紀の深刻な課題を解決する助けとなるでしょう。地球温暖化との闘いは、既にケリングのDNAに刻み込まれています。そのうえで世界レベルでの取り組みはずっと興味深いものになるでしょうし、目標達成に向け多くの大企業をひとつにしてくれるでしょう。団結することで、私達は更に強い影響をもたらすことができるのです。