「サステナビリティとは、経済的かつ技術的な挑戦です」

リカルド・ビナーギと彼の兄弟フィリッポは、北イタリアのロンバルディア州にあるコモ湖周辺で、繊維産業に従事する一家の5代目です。彼らの父が設立した会社ロルマ(Lorma)の責任者として、オーガニックで伝統的なシルクをケリングのブランドに供給しています。

ロルマ社を、ひとことで表すと?

伝統における革新です。私たちの理念は、伝統的なノウハウを守りつつ、革新を受け入れることです。つまりそれは、新しい製造工程、機械、製品を導入すること、そしてサステナビリティへの挑戦を意味します。私たちは垂直統合された会社として、生糸の輸入から、整経、製織、精練、染色、印刷、仕上げを経て、すぐ使える状態の生地を作り上げるまで、製造工程の全てを管理しています。このトレーサビリティは、品質とサステナビリティを証明するうえで非常に重要です。

サステナブルなシルクには、どのようにして関わるようになったのですか?

6年程前に環境に優しい染料について調査をしていたのですが、サステナブルなコットンはすでに入手可能でしたので、シルクもそれに続くだろうと考えました。その後、私たちはエネルギーと水の消費を最適化するため、ケリングのクリーン・バイ・デザインプログラムに参加し、またR&D(リサーチ&デベロップメント)プロジェクトを立ち上げ、「オーガニック・テキスタイル世界基準」(以降GOTS)適合認証に準拠したシルクの生産をどのようにしたら可能となるか探求しました。ケリングから発注を受けた2018年がターニングポイントとなり、私たちは工業規模で生産を開始し、認証を取得しました。

© Lorma

原材料はどこから調達していますか?

中国が主な産地です。GOTS適合認証を受けるには、養蚕農家は桑の木に化学肥料や殺虫剤を使用することができません。その代わりに、天然肥料を与え、特定の寄生虫のみを捕獲するフェロモントラップを仕掛け、木々を守ります。シルクがよりサステナブルなコミュニティーをも創造するということにも、言及する価値があるでしょう。中国では多くの人々が経済的な理由から田舎を離れていますが、養蚕農家の人々は生活に十分な収入を得ることができています。

オーガニックシルクの製造工程は、他とは何が違うのでしょうか?

まず絹(ケン)膠(コウ)を取り除くことから始めますが、化学物質の代わりに、マルセル石鹸を使用して行います。次に染色を行いますが、これは本当に困難を極めました。今日、環境に与える影響に大小の差はあれ、全ての染料が化学物質をベースとしています。サステナブルなコットンに使われる染料の中にはシルクに使用できるものもありますが、私たちのサプライヤーは、これまでずっと標準的な染料を製造してきていて、GOTS適合認証に準拠した染料の開発に投資するよう説得するには時間を要しました。

サステナビリティ生地の価格にどのように影響しますか?

原材料と生産コストが上がったことに加え、認証の限界費用も追加となったため、取引先との間で合意に至る必要がありました。でなければ、商品の値段が吊り上がることになり、そもそもお客様の手元に届きません。この点を理解し、協力して理論上のものを具現化する力添えをしてくれたケリングに感謝しています。サステナビリティは、私達にとって経済的かつ技術的な挑戦でもあるのです。

© Lorma

この市場の発達をどのように見ていますか?

それはブランド次第かと思います。人々が製品を理解できるよう、広告やソーシャルメディアを通じて、消費者を教育するブランドの能力次第でもあります。十分な数の製造業者が存在しているサプライチェーンは準備ができていると思いますし、製品という点で、ケリングはその道の先頭に立っています。サステナブル・テキスタイル生産における追加費用を下げ、スケールメリットを実現するために、いかに需要を伸ばすかが現在の課題です。でなければ、ニッチな市場から抜け出せないリスクがあります。シルクには、語られるべき素晴らしいストーリーがあります。適切なコミュニケーションを行えば、人々はそのストーリーに耳を傾けてくれるでしょう。