カシミヤ・プロジェクト:より良い放牧への一歩

ケリングがスタンフォード大学およびNASAの協力の下、「野生生物と社会」学会(旧:野生生物保護学会)とリオ・ティント社を中心に進める南ゴビ・カシミヤ・プロジェクトでは、モンゴルの大草原で生産される高品質カシミヤの製造を根本から見直しています。本プロジェクトは、短期での成果を見込めるケリングの新しい取り組みです。

目的:モンゴルに生息するカシミヤヤギの群れを環境・社会災害から守る

世界中で高まるカシミヤの需要と90年代に起きた農業部門の劇的な変化により、モンゴルに生息するカシミヤヤギの数が急増しました。気候変動により深刻化する放牧圧の上昇は、モンゴル国内に広がる天然の牧草地の減少や、一部の地域で生じている砂漠化の原因になっています。過去数年の間に百万単位で家畜が死亡し、カシミヤの牧畜民やサプライヤーの収入を脅かしています。現在でもモンゴル産の最高級カシミヤは、ラグジュアリー業界を象徴する繊維のひとつです。2014年にケリングは、牧畜をよりサステナブルにする解決策を早急に導入し、マスコミが「カシミヤ危機」と揶揄する現状を打破する必要性を訴えました。

ソリューション:サステナブルかつ品質を強化したカシミヤのサプライチェーンモデルを確立する

2014年、カシミヤ・プロジェクト(現:南ゴビ・カシミヤ・プロジェクト)を通じてケリングは、パートナーである「野生生物と社会」協会(旧:野生生物保護学会)とともに、カシミヤ製造の工程における環境への負荷を減らし、モンゴルの南ゴビ地域において、新しいサステナブル・モデルに切り替えることができるように支援をしました。ケリングではこの5年、牧畜民コミュニティおよびNGOと協力して、カシミヤ繊維の品質向上と、牧草地管理および生物多様性保全に取り組んでいます。

ケリングが最初に取った行動のひとつは、生産工程をより衛生的かつ効率的にするための毛梳き作業の改善支援です。現地の牧畜民は、カシミヤを品質ごとに分類し、従来のビニール袋ではなく、等級別に綿袋に袋詰めする方法を習得しました。またヤギの畜産や繁殖技術の向上によりカシミヤ繊維自体の品質も高まっています。本プロジェクトでは他にも、カシミヤヤギの健康維持や体調管理のため、獣医による検診サービスも提供しています。家畜管理には年老いた家畜の売却、ヤギ肉、チーズ、ヤギ乳の市場への取り次ぎ、カシミヤ価格の引き上げが含まれます。正しい管理を行うことにより、家畜業者の収入を減らすことなくカシミヤヤギの頭数を減らすことが可能になりました。

同時に本プロジェクトでは、どの牧草地にどのぐらいの期間放牧すべきかの、年間計画を立てるサポートもしています。2017年からプロジェクトに参加しているスタンフォード大学およびNASAが収集している衛星画像は、牧草地の状態確認と放牧可能なエリアを判断するための情報として役立てられています。まだ始まったばかりのプロジェクトですが、放牧管理は今後ますます改善されていくことが期待されます。

ケリングでは、環境、社会および動物福祉の適正度を認定するシステムの開発も支援しています。牧畜民がより高品質のカシミヤを製造し、サステナビリティを高めることが、報奨金やカシミヤの価値高騰といった報酬に結びつくことが重要です。

 

© Stuart Ansee
© Stuart Ansee

バランス:協力によって得られる利益

170世帯の牧畜民が参加したプロジェクトの初期の成果を見ると、すでに生産量の増加や品質の向上に加え、牧畜民自身の生活水準も上がっています。この結果とあわせて、「野生生物と社会」学会(旧:野生生物保護学会)とのパートナーシップにより、家畜業者が牧草地管理および、野生のロバ、レイヨウやユキヒョウなどの野生動物保護において重要な役割を担っているという認識が高まりました。「サステナビリティを確立することを最終目標に定めた、10年間におよぶプロジェクトにおいて今はまだ道半ばですが、この先2年間のカギとなる道しるべは牧草地の改善です」と、本プロジェクトの監査を行っているサステナブル・ソーシング・イノベーションの責任者を務めるヘレン・クロウリーは話します。

プロジェクトが既にもたらした最も大きな成果は、協力体制を構築できたことでしょう。企業が単独でサステナビリティに取り組む日々は、とうに昔の話になりました。モンゴルの他の地域においても、放牧関連の共同プロジェクトが始動しています。6月に国際連合開発計画によって組織された、サステナブル・カシミヤに関する国家円卓会議において「段階的変化」があったことが認められました。買付業者、政府、および科学関係者が一堂に会した同会議の開催は、ケリングの先駆者としてのイニシアティブが生み出した、形ある成果のひとつと言えるでしょう。