ブルートン・ストリートのブリオーニ:ロンドンの家、ローマの魂

ブリオーニのロンドンの旗艦店が、約1年間にわたるリノベーションを完了。高級感あふれ、心地良く美しいデザインが揃った多文化的な世界でお客様をお迎えします。

Kering - Brioni - Bruton Street London

ブルートン・ストリート32番地。外側は歴史的建造物のグレード2に登録されたクラシカルなジョージアン様式の4階建ての建物で、1736年に建てられた時からその姿をとどめるファサードは、英国女王エリザベス2世が生まれた高級住宅街のメイフェア・ストリートに面しています。
建物の内側は高い天井や暖炉、凝った装飾のモールディングなど、18世紀の代表的なタウンハウスの特徴を備えています。ローマの紳士が選んだこれらの装飾や調度品に、ミッドセンチュリーのイタリアの家具や照明器具をいくつも取り入れることで、クラシカルなロンドンのタウンハウスにローマの魂が宿ったブティックとなりました。
リニューアルしたブリオーニのロンドン店に、ぜひお越し下さい。

「タウンハウスとい建物の英国的なフレームワークに再び光を当て、そこにローマの魂を宿したかったのです。そしてブリオーニがテーラリングの要であるように、この旗艦店がデザインの要となることを強く意識しました」とフィリップ・ジョセフは語っています。ジョセフは今回の改装を手掛けたロンドンの建築事務所、P. Josephのクリエティブ・ディレクターで、2015年に双子の兄弟、ピーターと共にこの事務所を設立しました。

 

Peter (left) and Philip (right) Joseph, the brothers behind P. Joseph
Peter (left) and Philip (right) Joseph, the brothers behind P. Joseph

ブリオーニというキャラクター

P. Joseph は想像上のローマの収集家がこのタウンハウスに居を構えているという設定で旗艦店のデザインに着手しました。ブリオーニを一人の人間として捉え、その想像上の人物の生活を注意深く各フロアに反映させています。P. Josephの委託を受けたデザイン史の歴史学者、キャサリン・ロッシ博士はブリオーニに現実的な人格を持たせるという目標を掲げながら、歴史的な戦後のイタリアのデザインピースの本物のコレクションによる店内の装飾のフレームワークを築きました。そのテーマは、洗練されたセンスやスタイルを持ったローマの紳士が暮らす、世界のどこかにある家というもので「ブティックスペースというよりも、私邸に近いものを目指しました」とジョセフは付け加えました。スペース全体に、1940年代から80年代にかけて作られた独創的な家具や照明が装飾として使われており、カルロ・スカルパやフランコ・アルビニ、アフラ&トビア・スカルパ、アキッレ&ピエール・ジャコモ・カスティリオーニ、ルイジ・カッチャ・ドミニオニ、アンジェロ・マンジャロッティらが手がけた作品が並んでいます。求められる雰囲気を作り出す上で、ブティックということが明らかにわかる要素を減らすことが重要となりました。「この建物が建屋として存在していたことが幸いでした。店舗で使用する什器を外し、建物本来が持つ美しさを引き出すことが重要となりました」

ブリオーニが75年の歳月をかけて完成させてきた、テーラリングの技。そのルーツに立ち返ることと、ロンドンの旗艦店のリニューアルに明確に表れている信頼できる真実を探求する姿勢には、似たところがあります。ジョセフは暖炉や鏡、床の上に重ねられていたものを取り払い、この建物を支える英国的なフレームワークの骨格部分を見つけ出し、修復しました」
また、イタリア製の家具、照明やテキスタイルのコレクションが英国の建物の中に心地良く配置され、ソフトでローマのカラーパレットである深みのある壁の色と控えめなクラフツマンシップが2つの文化を美しく繫いでいます。P. Josephは英国の高級木製家具メーカーと手を組み、特別に調達したスコットランド産の楡の木を使った重厚な建具や什器、ドアのハンドルなどをデザイン、製造しました。1階の最も目立つ場所には、ジャロ・シエナの黄色い大きな大理石の丸テーブルが置かれています。このテーブルはあまりに大きく、「クレーンを使って店内に搬入するのに、ブルートン・ストリートを1時間閉鎖しなければならなかったほど」とストア・マネージャーのジェマ・プルームは明かしました。このテーブルはディスプレイに用いられていますが「定番のディスプレイケースは周囲が囲まれていたりしますが、このテーブルならそうはなりません」とプルームは述べています。

玄関ホールの床に使われているのはポートランドの石とカラーラの大理石でローマにあるパンテオン神殿のデザインが元になっています。また、カーペットやタペストリーで覆われたパーテーションは独創的なデザインで、イタリア・ジェノヴァにあるテキスタイルメーカー、M.I.T.A.のアーカイブにあったものをベースにしています。「元々は1952年に、客船のアンドレア・ドーリア号のために作られたマイケル・ラックリスの色鮮やかなタペストリーでした」とジョセフは語っています。

 

 

お客様が心地よい親密さを感じられる空間

ロンドンの旗艦店は壮麗な階段がお客様を上階にあるブリオーニの世界へと誘いつつ、階を上るごとにより親密な雰囲気が感じられるように作られています。1階ではお出迎えしたお客様に飲み物を提供しながら、コレクションをご覧いただきます。フィッティングのためのスペースはその上の2つのフロアにありますが、壁に覆われた試着室のような場所ではなく、“リビング”エリアの中にフレキシブルな形で設けられています。先述のタペストリーで覆われたパーテーションを必要に応じて動かし、アレンジすることでお客様やテーラーがスペースを広げたり狭めたりする仕組みです。プレタポルテのお客様は“ピアノ・ノビーレ”、つまりメインフロアとなるより広々として贅沢な2階に引き寄せられる一方、ビスポークのお客様はブティックの中で最も親密感が高い3階へと誘われることでしょう。「この3階ではメモをとり、寸法を測り、必要な詳細情報をすべて記録して、ビスポークのお客様が私たちに伝えて下さったあらゆるご希望を漏らさず受け取ります。お客様にビスポーク サービスを提供するブランドは、高度な信頼関係を築く必要があるのです」

心地よさとサービス

心地良さを提供するだけでなく、効率性も確保することを目指したブティックの空間は、ブリオーニの時代を超越するテーラリングを中心に据えつつ、文化とスタイルを融合させています。では、ビスポークやプレタポルテを求めるブリオーニのお客様と、この英国とローマの文化が融合する邸宅という環境はどのように共鳴するのでしょうか?

「お客様はこの空間を気に入っていらっしゃいます。ブリオーニのお客様にとって、お金は問題ではありません。大切なのは時間なのです。リラックスできて、ふらりと立ち寄れる。居心地が良くて、自分のワードローブも選べる。それがすべて同時にかなう場所、お客様の暮らしの延長線上にあるのが、このブティックなのです」プルームはそう断言します。ブリオーニのスーツのように“丁度よくなじむ”所と言えるのでしょう。

建築という点に関して、ジョセフは近く世界各地でオープンするブリオーニのブティックでも、このロンドンの旗艦店と同じように利便性、創造性、心地良さが空間と一体となったものを目指しています。たとえば東京・銀座はP. Josephが旗艦店を手掛ける予定地の一つで、ローマのルーツに敬意を表しつつ、日本の素材やクラフツマンシップも取り入れようとしています。「ブティックのあらゆるものに関して、ローカルなものは何か、またブリオーニというブランドと共通するものは何かを見極めることが重要です」とジョセフは語っています。

お客様にとっては、世界中のどこのブティックを訪れても、この新しいアプローチを通じて親近感や仲間意識を高めることになります。「“第二の我が家”的な新しい感覚ではありますが、ブリオーニは常に、ある種のクラブのような存在であり続けてきました。ブリオーニのスーツを自分が着ている時だけ、ブリオーニのスーツを着ている他の人の存在にも気付くのです。今、私たちが用意したのはお客様のためのクラブハウスです」とプルームは述べています。