中国:ソーシャルメディアの力を最大限に活用するには

他国と同様に、中国でのマーケティングにおいてソーシャルメディアは、重要な役割を果たしています。しかし、プラットフォームとそこを訪れるミレニアル世代についていえば、中国が他国に比べ際立つ点とは何でしょうか?中国でソーシャルメディア、テクノロジー、およびCRMを専門としてデジタル関連サービスを提供する企業、CuriosityChinaの共同創業者で、最高戦略責任者であるアレクシス・ボノーム氏が答えます。

Alexis Bonhomme
Co-fondateur et directeur de la stratégie de CuriosityChina

なぜ中国は、ラグジュアリーブランドにとって重要な拠点となっているのでしょうか?また、この国のソーシャルメディアにはどのような違いがあるのでしょうか?

中国だけで全世界の高級品市場の1/3以上を占めていますが、このシェアはじきに1/2にまで拡大し、人口も全世界の20%を占めるようになります。Facebook、Instagram、Twitterなど、欧米のすべてのソーシャルメディアのネットワークが遮断されているため、中国には異なるプラットフォーム、コミュニケーション方法、言語、そして異なるタイプの消費者が存在しているのです。中国のミレニアル世代は、住む都市の規模に応じて、ラグジュアリーファッションにつき異なる姿勢を持っています。主要なラグジュアリーブランドとニッチなラグジュアリーブランドの市場どちらをも持つ北京や上海などの、第一階層に属する都市、そして主要なブランドに対する憧れがより強い武漢や重慶などの、第二階層や第三階層に属する都市では、消費者の特徴に大きな違いが見られます。

これらの消費者のためのラグジュアリーファッションに、価格設定はどのような影響をもたらすのでしょうか?

中国では、プライス・ポイントが重要なファクターです。輸入商品は多くの税金が加算されるため、実際には二つの市場が存在するといってよいでしょう。一つは中国国内の市場、もう一つは、英国のEU離脱を機にファッションの値段がより低くなったパリやロンドンを訪ねる、中国人旅行者の市場です。高級品を手にすることができるが(アパートを購入したり、結婚をする時期を遅らせているため)、多額な出費に躊躇しているミレニアル世代のことを言い当てる「HENRYs」という言葉がアメリカには存在し、多くの中国のミレニアル世代にも当てはまります。この単語は、「High Earners, Not Rich Yet(高額所得者であるが、まだお金持ちではない)」という表現の各語の頭文字で構成した造語です。彼らは台頭するミレニアル世代であり、ラグジュアリー業界において今後、優先的なターゲットとして見なされているのです。

ラグジュアリーブランドと、そのソーシャルメディアに期待されていることとは何でしょうか?

中国社会では競争が激しく、ラグジュアリーファッションがもたらすステータスが重要視されています。ソーシャルメディアでは、クリエイティブかつ、ブランドについて学ぶことのできるコミュニケーションでなくてはなりません。オーセンティックであることも中国のミレニアル世代の間では、重要視されています。コンテンツがシャープで率直、ビジュアル重視で、時としてユーモアのあるグッチは、これを巧みに行っていると思います。そしてこのブランドの信頼性は、中国で確実に高まっています。

ラグジュアリーブランドが中国において使用するべきソーシャルメディアとは?

主なプラットフォームは三つ存在します。中でも最も有名なのがWeChatで、月間の利用者数は9億8,000万人近くに達し、一対一のコミュニケーションを目的としたものです。ビジネスの面においては、このプラットフォームを通して適切なメッセージを適切なユーザーに向ければ、実店舗への誘導が可能となり、あるいは行動傾向や、電話番号、メールアドレスなどの付加的なデータを収集することができるのです。WeChatは素晴らしいCRMプラットフォームとして見なされているほか、大きなEコマース・チャンネルにもなりつつあります。Weiboは一対多数のコミュニケーションを目的としており、友だちや、友だちの友だちの活動を見ることができます。Weiboの利用者はWeChatの利用者ほど活動的でないため、情報の公開、ストーリーテリング、そしてブランドのポジショニングのために活用されています。三つ目はYoukuまたはTencent Videoで、これらはいわばYouTubeの中国版といえます。

中国では、ソーシャルメディアやEコマースのライブ配信が大きな規模で行われるようになっています。有名なブロガーたちが口紅などの商品を自らが使用する様子を撮影して配信する一方で、画面上にボタンが表示され、これをクリックすることで視聴者はその商品を購入することができるといった仕組みです。一日のアクティブユーザー数が1億5,000万人にも達するToutiaoというニュースアグリゲータも、最近ではマーケターからの注目が集まっています。さらにJD.com、VIP.com、Tmallなど、無償で利用はできないものの、膨大なトラフィックを誇る大規模なEコマースプラットフォームもいくつか存在します。複数のラグジュアリーブランドが、商品を販売することだけでなく、ブランドの認知度を高め、中国におけるEコマースのいわば「予備調査」を行うことを目的として、すでにこれらプラットフォームを活用しています。重要なポイントは、中国市場が急速に進化を遂げており、各ブランドはそれに素早く対応することが求められているということです。素早い行動と対応能力が必要不可欠となっています。

中国ではソーシャルメディアがどの国よりも広範囲にわたって活用されています。それはなぜなのでしょうか?

第一に、中国ではソーシャルメディアは専らモバイル機器を通して利用されています。誰もがスマートフォンに夢中になり、一日6時間でも7時間でもコンテンツを閲覧しています。これには実用的な理由があります。モバイルコミュニケーションとモバイルコマースは、利便性の面で大きなメリットがあります。例えば、通話する代わりにボイスメールを送信し、WeChatを通して映画のチケットを購入したり、最近Uber Chinaを買収したDidiを利用して、ワンクリックでタクシーの配車を依頼したりすることができるのです。もう一つのより社会的な理由は、若い世代が被る社会におけるステータス、家族の期待、職場での出世競争、生活と教育にかかる膨大な費用についての大きなプレッシャーです。ソーシャルメディアがあれば、そうした状況から逃避することができるのです。ソーシャルネットワークは、若い人々が違う自分をアピールし、違った生き方を見せることのできる場を提供しているのです。

中国では、キー・オピニオン・リーダー(KOL)の存在がラグジュアリーブランドにとってどれほど重要なのでしょうか?

Gogoboiとして広く知られているファッション分野のブロガー、イェ・シ(Ye Si)をはじめとする大物(Aクラス)のキー・オピニオン・リーダー(KOL)がいますが、彼らは数多くのブランドと協力しており、ブランド各社もそのためにかかる費用をマーケティングの予算として確保しているほどです。Aクラスのブロガーの協力を得るには多額の費用がかかります。しかし、BクラスあるいはCクラスのブロガーであってもフォロワーの数は相当数に上り、特にローカルレベルにおいて使い勝手の良いブロガーがたくさん存在しています。上海に店舗を開くのであれば、中国全土でインフルエンサーたちとキャンペーンを展開する価値はあるでしょうか? 数年前までは、答えは「Yes」だったでしょう。しかし各ブランドがターゲット・マーケティングに移行した今日であれば、答えはおそらく「No」でしょう。中国は大国です。国民は数百マイルもの距離を移動して特定の店舗にまで足を運ぶことはないでしょう。このため今では、各ブランドは自分たちと協力できる良質なキー・オピニオン・リーダー(KOL)やブロガーだけでなく、彼ら自身のインフルエンサーたち、すなわち自分たちのブランドをすでにフォローし、コンテンツをネットワーク間において無償で共有している人たちの身元を特定しようと努めています。

マーケティングの視点から、中国ではソーシャルメディアはどのように進化しているのでしょうか?

各ブランドは、ソーシャルメディア上に二つの市場を持っています。一つは、誰かはわからないが、自分たちのブランド・コミュニティに引き込みたいと考える人たちで形成されているエクスターナル・マーケットであり、もう一方はブランドをフォローし、顧客となり得る人たちで形成されているインターナル・マーケットと呼ばれるものです。現在の傾向としては、インターナル・マーケットにより注目が集まっています。多くのブランドは新しいフォロワーをただ探し求めているのではなく、オンラインとオフラインのさまざまなタッチポイントからデータを収集することで、すでに存在するフォロワーについてより多くのことを知りたいと考えています。フォロワーのうち最も活動的で影響力の大きい20%のユーザーを割り出したいのです。ターゲット・マーケティングは、コンバージョン率が高く、エクスターナル・マーケットにリーチするような費用がかからないことから、費用対効果もより高いといえます。言い換えれば、中国のソーシャルメディアはデジタルテクノロジー化が進み、テクノロジーとデータによって、マーケターのコミュニケーション戦略構築は大きく影響をうけるようになったのです。オーディエンスの適切なセグメンテーションが行われていなかった従来のデジタル広告の世界から、中国のソーシャルメディアは脱却しつつあるのです。

中国のミレニアル世代は、グッチとそのソーシャルメディア上での存在をどのように受け止めているのでしょうか?

グッチというブランドを熟知し、そのダイナミックなヘリテージに取り組むアレッサンドロ・ミケーレがクリエイティブ・ディレクターに就任して以降、同社の中国でのビジネスは非常に好調に推移しています。彼がこのブランドにもたらしたコラボレーションに対する信頼と透明性によって、グッチは中国において「クール」なブランドとして確立されました。また、しばらく保守的でミニマリストデザインを好む傾向が続いたファッション業界全体に新しい風を吹き込みました。グッチは色彩豊かで堅実である一方、コピーライティングに切れがあり、ユーモアにあふれています。そのアプローチは今までとは大きく異なるものの、目的は見事に達成し、市場の注目を浴びました。それはまた、欧米をはじめとするグッチ従来の顧客の期待には沿うことができないというリスクを想定しつつ、ミレニアル世代に焦点を絞った、明確なアプローチでもありました。今ではその戦略は他の多くのブランドの参考となり、中国においてメインストリームとなっています。グッチにとって、そのなかで独自性を維持してゆくことが今後の課題になっていくでしょう。