ケリングの中国拡大戦略の内側

ケリングは中国本土で最大級の事業規模を誇る不動産ディベロッパーの一つ、恒隆地産(ハンルン・プロパティーズ)との間で複数の都市、ショッピング・モール、ブランドにまたがるパートナー契約を締結しました。この歴史に残る契約を結んだことで、ケリングは中国における購買習慣の大きな変化から恩恵を受ける好位置につくことになるでしょう。ケリングのリアルエステート・ディレクター、セルジ・ヴィラールが当グループの最近の中国での事業拡大の背後にある戦略について詳しく語ります。

Located in Shanghai, the Plaza 66 mall consists of a shopping mall and two skyscrapers. This shopping mall has 5 levels with a total area of over 50,000 square metres
Located in Shanghai, the Plaza 66 mall consists of a shopping mall and two skyscrapers. This shopping mall has 5 levels with a total area of over 50,000 square metres

「リテール開発は戦略的ビジョンとチャンスの融合」だとケリングのリアルエステート・ディレクター、セルジ・ヴィラールは言います。この融合は2019年7月、ケリングが中国最大の不動産ディベロッパーの一つ、恒隆地産との間で中国全土の6都市に5ブランド、14店の新しいブティックをオープンするという包括的契約を締結するという形で実を結びました。

「今年の夏、このような契約にすべて同時に署名したことは、ケリングの中国での事業の発展において重要な一歩であり、また恒隆地産という重要なディベロッパーとの関係においても非常に大きな意味を持つものとなりました」とヴィラールは述べています。年間2,600億ドルに上る世界全体の高級品に対する支出額の約3分の1を中国の消費者が担う中、ケリングは1997年に上海でグッチの中国本土第1号店をオープンして以来、同国での存在感を高めてきました。恒隆地産との新たな契約はこの戦略をさらに前進させるもので、新しくオープンするブティックの立地は大連や昆明、武漢、瀋陽、無錫といった中国本土で最も開発ペースが速い都市の中心地となっています。また、上海ではすでにケリングの8ブランドが市内全域の7つのショッピング・モールに店舗を構えていますが、今回の新たな契約により高級ショッピング・モールのプラザ66での事業展開(グッチが今夏にブティックをオープンしたほか、サンローランはモール内のより広いスペースに移転、ブシュロンとバレンシアガは同モール内の仮スペースから恒久的なスペースに切り替え)に加え、改装されたグランド・ゲッタウェイ66でも新しいブティックをオープンすることになりました。さらに、中国本土の成長著しい5都市の中心部にも、新しいブティックをオープンすることが盛り込まれています。このように事業拡大を通じて、ケリングは中国における高級品消費の変化にも遅れることなく確実に対応していきます。

中国政府が昨年、高級品に対する関税の引き下げを含む一連の施策を導入したのを受け、同国では国外よりも国内の市場で高級品を購入する動きが強まっています。このような施策が中国の人々に対して自国内での消費を促す一方、人口が増加する地方の中心都市では経済が発展し、高級品を手に入れることができる状況が生まれています。その結果、不動産業界は新たな場所を探し出してはきれいに飾り付け、フロアプランを立て、中国国内の消費者の手が高級ブランドに届くような場所でリテール体験を生み出すのに必要なあらゆるものをかき集めている状況です。「今回の恒隆地産との契約によって、私たちは昔から高級品の消費を支えてきた方々から新たに頭角を現した裕福な方々まで、中国でラグジュアリーショッピングを楽しむすべての方にリーチできるようになります」とヴィラールは語っています。

 

Wuxi's Center 66 mall, located in Chong'an District, the central business district of Wuxi
Wuxi’s Center 66 mall, located in Chong’an District, the central business district of Wuxi

 

タイミングが極めて重要だった複雑かつ包括的な契約

今回の契約で、各ブランドから合意を得ることは簡単でした。「多くの利害関係者が絡んでいるため、それぞれのブランドのために適切なスペースを押さえ、できる限り良い条件で交渉するというのがなかなか厄介でした。タイミングは極めて重要です。話し合いを終えて契約を結ぶ頃になって、当初想定したこととは違うものが必要だと気づくこともあります。中国市場は動きが早く、急速に変化しています。そのため、柔軟に対応しなければならないのです」とヴィラールは言います。テナント契約もこの点を反映しています。15年ほど続く場合もある欧州でのリース契約とは異なり、中国では通常の契約期間が2~3年程度です。ヴィラールは中国の小売業を取り巻く状況から生まれるさまざまな問題を「動く標的のようなもので、常に流動的」だと表現しています。

さらに、このような規模の契約は戦略的なバランスも必要となってきます。「店舗数が過多にならないよう、抑えなければなりませんでした。大都市の中だけでなく、その周辺の地域も含めて考える必要があります。たとえば無錫市のプロジェクトは当初、上海でのビジネスに影響が出ることが懸念されました。ですが、無錫市にあるショッピング・モールのセンター66は地域のショッピングセンターとして開発に成功しており、消費者の動きを評価した結果、同市は上海のお客様を減らすことなく、むしろブランド構成に新たなお客様を取り込めると判断したのです」とヴィラールはコメントしています。

来年、新たなブティックがオープンしてもケリングの取り組みが終わることはありません。むしろその逆で、その時からブランドに対する将来的なニーズを予想する取り組みが始まるのです。

 

© Hang Lung