「ブリオーニとは、ファッションではなくスタイル」

イタリアの伝説的なテーラリングブランド、ブリオーニが今年、創業75周年を迎えます。これを祝し、ブリオーニは核となる価値観を深く刻み込むと共に、新しいブランド・アンバサダーを任命しました。

Brad Pitt, new ambassador of the Tailoring Legends campaign. Photographer: Mikael Jansson © Brioni

ブリオーニのデザイン・ディレクター、ノルベルト・スタンフルは未来を見つめた上で、このブランドのルーツに立ち返ろうとしています。「ブリオーニといえば、イタリアのセンス、ローマのセンス、そしてクラフツマンシップ。あるいは高級感と、男性的でこなれたエレガンス。あるいは悠然として出しゃばらない、というのがブランドをよく知る人々の評価でしょう」 2018年9月にブリオーニのデザイン・ディレクターに任命されたオーストリア生まれのスタンフルは、そう語っています。スタンフルは就任以来、ビスポークのテーラリングと高級感あふれる生地が生み出すブリオーニの世界にすっかり没頭しています。さらに、サステナビリティも意識しており「イタリアのサプライヤーから入手した、よりサステナブルな生地を使っています」と話しています。

 

Norbert Stumpfl, Brioni Executive Design Director
Norbert Stumpfl, Brioni Executive Design Director

スタンフルは次のように語っています。「ブリオーニは、別世界なのです。軽やかな素材。体に寄り添いつつ、なめらかな動きを妨げないテーラリング。それがすべてなのです」 外から見えるロゴはありません。服そのものが語り掛けるのです。ブリオーニは控えめでありながらも、力強い存在です。「ディテールを堪能するためには、服を注意深く見ないとすぐには気づけないかもしれません。たとえば、ジャケットを買って数カ月経ってから、ポケットの中がとても柔らかいのは内側がレザーだからだ、と気づいたりするのです」

テーラーとして研鑽を積み、ブリオーニに入社するまでの13年間はパリの高級ファッション業界でキャリアを築いてきたスタンフルは、ブリオーニが生み出す服の表情や感触、ドレープに情熱を抱いています。「ブリオーニは、半年ごとに自分のファッション・スタイルを変えたいと考える男性には向いていません。ブリオーニはファッション、すなわち流行ではありません。私たちが提供しているのは、スタイルなのです」と語るスタンフルは、揺るぎない姿勢を示しました。

ブリオーニのこのスタイルは、75年前に誕生しました。そして映画の撮影所であるチネチッタで『甘い生活』が撮影され、ローマ近郊の映画スタジオがこのジャンルの作品をこぞって生み出していた時代に、ブリオーニは世界的に有名になりました。ブリオーニが現在も続けているキャンペーン“テーラリング レジェンド”の伝統が生まれたのもこの時期で、アンソニー・ホプキンスやピアース・ブロスナン、サミュエル・L・ジャクソンといったスターたちが起用されてきました。また、ご存じの通り、ブリオーニは長年にわたりジェームズ・ボンドの衣装も提供してきました。とはいえ、ジェームズ・ボンドは架空の存在、ハイスペックな男性の象徴であり、実在する人物ではありません。スタンフルが描く今日のブリオーニの男性像は、さらに深みがあるものです。

「自分をしっかりと認識している男性。影響力のある仕事をしていて、おそらく出張も多いでしょう」とスタンフルは語ります。ブリオーニのスーツはそんな男性が常に求める存在ではありますが、スーツはあくまで彼の生活の一部でしかありません。スタンフルが考える男性像は、その人となりをあらゆる角度から捉えています。

「父であり、夫であり、週末には仕事以外の生活があります。そして洋服には着た時に制約を感じない、軽くて洗練されたものを求めている。私の仕事は、そんなブリオーニ・マンの暮らしをできるだけ快適にすること。飛び切り洗練された腕時計のように極薄で機能的、そしてエレガントなものを提供することです」

 

Brad Pitt, new ambassador of the Tailoring Legends campaign. Photographer: Mikael Jansson © Brioni

 

実際、今のブリオーニ・マンは実在の人物、厳密に言えばブリオーニの新しいアンバサダーであるブラッド・ピットです。「ブラッド・ピットにこの役を務めてもらえて、とても光栄です。彼は理想の男性ですから。男性はみんな彼のような見た目になりたいですし、女性はみんな彼が好きですからね。彼はやんちゃな若造ではもうありません。魅力的で洗練された大人の男性です。アートや建築など、さまざまなものに興味があり、ブリオーニのクラフツマンシップをこよなく愛しています」とスタンフルは語っています。

2020年、ブリオーニは各種ソーシャルメディアや広告、ビルボードの活用に加え、古き良きビジネスに新しいやり方を取り入れながら新たなシーズンをスタートさせます。2019年にはロンドンの旗艦店がリニューアルオープン。ブルートン・ストリートにある18世紀に建てられたジョージアン様式のタウンハウスで、設計はロンドンに拠点を置く建築事務所のP. ジョセフが手掛けました。また、ブリオーニが70年前に編み出した販売手法であるトランクショーを、年間を通じて開催。マスター・テーラーのアンジェロ・ペトルッチが鋭い目を光らせながら、世界各地の主要都市を回りました。

 

Brioni - Pitti Uomo
Brioni’s first show in 1952

ですが、おそらく最も重大な意味を持っているのは、1月上旬にフィレンツェで行われたメンズのファッション・イベント、ピッティ・ウォモにブリオーニがほぼ70年ぶりに復帰したことでしょう。ブリオーニのショーは、スタンフルが言うところの「何も見ずに終わる8分間のショー」などではなく1時間にわたり宮殿で開かれ、世界の名だたるオーケストラから抜擢されたサイズ46から54までの楽団員たちが、一人ひとりに合わせて完璧に仕立てられたブリオーニのさまざまなアンサンブルを着て音楽を奏でるものとなっています。

 

 

「今回のショーはミュージシャンのモデルや一般の人々、各分野のトップクラスのプロなど様々な人が幅広く起用されており、私たちのお客様一人ひとりが唯一無二の存在であることを表現しています。私はブリオーニを、このブランドにふさわしい高みへと押し上げたいと考えています。今回のピッティ・ウォモのショーは“良いものには時間がかかる”ということを再認識させるものとなっています」とスタンフルは語りました。