「ラグジュアリー・ブランドは商業施設に対する我々の見方を変えた」

不動産ディベロッパーのショッピングモールに対する見方は、高級品を購入する消費者によって変わりつつあります。今日のショッピングモールは、買い物をする場所にとどまりません。暮らしを支え、仕事をし、楽しむための場所なのです。
世界最大級の不動産投資信託、そして全米最大のショッピングモール事業者であるサイモン・プロパティ・グループの会長兼CEO兼社長を務めるデヴィッド・サイモンが、変化し続けるラグジュアリー・リテール市場への迅速な対応について語ります。

Gucci store at Las Vegas Forum, USA © Courtesy of Gucci
Gucci store at Las Vegas Forum, USA © Courtesy of Gucci
David Simon
Chairman, CEO and President of the Simon Property Group

1/ ラグジュアリー・リテールの今の潮流に合わせて、サイモン・プロパティ・グループの戦略はどのように進化していますか?

ラグジュアリー・リテールのトレンドに合わせる形で、私たちはますます「おもてなし」に注目するようになりました。つまり、五つ星ホテルに期待するようなサービスや体験をできる限り提供していく、ということです。その背景には、消費者が新たな体験を求めているということがあります。外出するのに、理由付けが必要なのです。したがって、ショッピングモールは自宅を出て向かう「目的地」にならなければなりません。ハイエンドのお客様を引きつける小売業の枠を超えた多彩なサービスを提供することで、買い物するだけでなく、遊び、働き、生活する場所となる。言うまでもなく、こうした場所はラグジュアリー・ブランドに自社を代表するブランドを見せる十分なスペースを与え、目の肥えた富裕層の買い物客を引き寄せる環境を作ることにもなります。

 

2/ ということは、グループが持つ施設に昔から入っているリテーラーが自ら、リテール・ポートフォリオを合理化し、施設全体を抜本的に変化させる、ということも意味しているのですね。

その通りです。ラグジュアリー・ブランドは、不動産に対する私たちの見方を変えました。先ほども申し上げた通り、ショッピングモールはただ買い物をするだけの場所ではもうありません。高級品を購入する人々を魅了する、洗練された場所でなければならないのです。私たちはリテール・ポートフォリオの合理化によって既存の小売スペースをホテルやレストラン、コワーキングスペース、エンターテインメントなどが融合した複合的なスペースに変身させることで、魅力ある場所を作る機会が得られたのです。例えばペンシルバニア州フィラデルフィア郊外にあるショッピングモールのキング・オブ・プルシアでは、以前に百貨店が入っていたスペースを再利用し、より高級感のある中心市街地のような雰囲気を作り出しました。そこにより上質な飲食店を入れたり、専用駐車場や自宅への配達といったサービスを提供したり、あるいは家族同士が集まれるような屋外の公園など、多目的スペースをいくつも用意することで、より快適に過ごせるような工夫を凝らしました。また、カリフォルニア州サンディエゴのファッション・バレー・モールは21世紀の団欒の場にする、という目標の下で施設全体の見直しを進めています。ジョージア州アトランタのバックヘッド地区にあるフィップス・プラザでは、客室数150のノブ ホテルとレストラン、30万平方フィート(約2万7,900㎡)の面積を持つトップクラスのオフィスタワー、9万平方フィート(約8,400㎡)の面積を持つオフィス施設と3万平方フィート(約2,800㎡)の高級フードコートを建設中で、買い物客がショッピングモールという閉じられた空間にとどまるのではなく、建物の内外をオープンに行き来できる環境で楽しく過ごせるようになります。つまり、高級品を購入する人々を対象に、ショッピングモールそのものを中心市街地のような場所にする、という考え方なのです。

 

3/ こうしたラグジュアリー・リテールや不動産の変化は、ラグジュアリー・ブランドとショッピングモール事業者との関係においてどのような意味を持っているのでしょうか?

15年前、ショッピングモールを建てる上で最も重要な「拠り所」は百貨店でしたが、今日ではラグジュアリー・ブランドがその役割を担っています。ラグジュアリー・ブランドは自社の商品を見せる場所として百貨店に頼る必要がなくなり、自分たちで管理できる手立てを求め、また自分たちのスペースを最適化するためにショッピングモールのオーナーと手を組みたいと考えています。その結果、ハイエンドのお客様をターゲットとするショッピングモールは劇的に変化しました。ラグジュアリー・ブランドはお客様をどうもてなすべきかを知っています。私たちはそこから学び、自分たちのビジネスをさらに改善していこうという刺激を得ています。それが洗練された飲食店や係員付きの駐車サービス、配達やコンシェルジュ・サービスといった、お客さまにより快適に過ごしていただくためのサービスの提供へとつながっているのです。さらに、私たちはVOGUEやハーパーズ バザーといったファッション業界では最高クラスの媒体とも手を組み、ニューヨークやヒューストン、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ラスベガスといった主要都市のラグジュアリー市場にいるVIPの買い物客を引き付けるユニークなプログラムや一人ひとりに合わせたショッピング体験を生み出しています。各ブランドは、高級小売施設に入っている他の店舗から恩恵を受けることもあるでしょう。テナントと私たちが共存共栄する-それが私たちのショッピングモールの“目的地”としての機能強化につながるのです。私たちはラグジュアリー・ブランドの存在、そして私たちが作り上げた環境にもたらすものを高く評価しています。

 

4/ ラグジュアリー・リテール、そしてショッピングモールは今後、どうなっていくとお考えですか?

ショッピングモールについて、あまり明るい内容が語られることはありませんが、現実は大きく異なります。昔ながらのショッピングモールに対するプレッシャーは確かにあるかもしれません。ですが、人が特に多く集まる地域にある現代的でダイナミックなショッピングモールは来客数や売上高が伸びています。例えば、テキサス州ヒューストンのザ・ギャレリアは昨年度の売上高が約14億ドルに上り、大変盛況です。私たちはここでも施設を見直し、人々が強く行きたいと思う場所を取り戻すため、この地域にまだなかったブランドを入れたり、ノブやフィグ&オリーブのような有名な高級レストランを入居させたりしました。ハイエンドなリテールがニューヨークとビバリーヒルズにのみ目を向ける時代は終わり、今はアトランタやマイアミ、ヒューストンのように、質の高い消費者がいる活気に満ちた他の都市に向けて、市場は多様化しています。この流れがEコマースによって変わることはありません。現在、あらゆるリテーラーがオンラインストアを展開しており、私たちがオンラインリテールに押されながら提供できる最高の商品をお客様に届けるよう努力しているのは確かです。あるいは、成長ペースの減速に直面する可能性もあるでしょう。ですが、ショッピングモール内で構築できる物理的な空間や物を使った、お客様が夢中になれるような魅力的な体験は、インターネットで置き換えることができません。最も力のあるブランドであっても、携帯機器やコンピューターの画面を通じて自分たちが提供する商品の品質を提示するのは難しいことです。リアルな世界は必要です。人と触れ合う接客体験の価値を理解する高級品の購入者に関して言えば、世界屈指のブランドと共に素晴らしい環境を構築し、質の高い快適なサービスを提供して、そこを訪れたいと強く思わせる理由を幅広く用意することができれば…Eコマースに対する競争力を維持できると考えます。端的に言えば、ショッピングモールがすぐになくなることはありません。私たちはこれからも人々の暮らしに寄り添いながら、存続していきます。