キーリン:中国の伝統、モダンなデザイン、そして一風変わったユニークさ 「革新と伝統を融合させる作業は、綱渡りのよう」

1997年、伝説に名を残すシルクロードの敦煌・莫高窟を訪れ、中国の秘宝に深い感銘を受けたデニス・チャンはそれを創造的なアイデアに結びつけることを決意します。そしてデザイナーとしてのキャリアを重ね、2004年にキーリンを設立しました。キーリンは現在、中国の伝統と現代性をコンテンポラリーな形で融合したブランドとして有名です。ブランド名の「キーリン」は、縁起の良い中国の霊獣で、アジアでは愛を象徴する「麒麟」にちなんで名付けられました。とはいえ、この名は中国語でも英語でもない普遍的なものであり、中国というルーツとブランドのミッションの双方を体現しています。キーリンは2013年にケリング・グループに加わりました。キーリンの創設者でクリエイティブ・ディレクターを務めるデニス・チャンとCEOのクリストフ・アルトーが、同ブランドの戦略と今後の方針について語ります。

(左から)キーリン創立者/クリエイティブ・ディレクターのデニス・チャンとCEOのクリストフ・アルトー

15年前の設立以来、キーリンはどのように進化してきましたか?

デニス・チャン:中国の伝統を現代の世界に取り込む、というコンセプトは変わっていません。私は2004年にキーリンを立ち上げる7年前から、このコンセプトに取り組み続けてきました。そして、ブランド設立からの15年間でお客様のことをより深く理解し、より親密な関係を築くことができたことが、自分たちのビジネスに影響を与えています。たとえば、提供するジュエリーの種類を絞りつつ価格帯を広げることで、より若いお客様も手に取りやすくしています。

創造の過程において、革新と伝統をどのように融合させていますか?

チャン:決して簡単なことではありません。綱渡りのようなものです。伝統と現代性という二つの間で陰陽のバランスを取らねばなりませんが、ベースとなるのは常に5000年の歴史を持つ中国文化です。

たとえば私たちのベストセラー・コレクション「Wulu」は中国のひょうたんをモチーフにしたクラシカルなデザインが特徴です。ひょうたんは中国人に限らず、すべてのアジア人にとって、幸運や幸せといった重要な意味を持っています。このコレクションが世界の舞台に登場したのは、2004年のカンヌ映画祭で中国人女優のマギー・チャンが身につけた時です。私たちはこのモチーフをベースとしながら常にトレンディに進化させ、消費者の変化するライフスタイルに合わせてきました。モチーフの形は変わっていませんが、翡翠や赤メノウといった中国的な要素を中心に取り入れたり、ひょうたんの内側に複雑な模様を入れたりしています。

パンダをモチーフにした「Bo Bo」は遊び心にあふれたインタラクティブなコレクションで、たとえば服を着せ替えできる「Fashion Bo Bo」や手のジェスチャーを変えることで自分の気分を表現できる「Hip Hop Bo Bo」など、画期的な特徴を備えています。「Yu Yi」は夢が叶うシンボルとされる和錠の“Ruyi”にちなんで名付けられたコレクションですが、小粒な赤メノウをあしらった新しいデザインのバージョンは“The Little Red Lock”という愛称で、中国のバレンタインデーにあたる大変重要な七夕節をお祝いするアイテムとなりました。その結果、恋人に贈るプレゼントとして人気を集めています。また、中国の細やかなクラフツマンシップを画期的な形で表現したもう一つのコレクションが金魚をモチーフにした「Qin Qin」で、金魚の口に極小のマグネットを取り付けているため魚同士の口を付けることができ、“パートナー”が愛情あふれるキスを交わしているように見える仕組みです。

こうしたデザインはいずれも自分の好みに合わせてある程度調整できるというのが特徴で、ちょっと変わったユニークさがあって気軽に身につけられる、そして手に取りやすい価格のアイテムとなっています。「Wulu」なら昼間に身につけてスーパーに行くことも、あるいはイブニングドレスに合わせて夜にお出かけするもともできるのです。

Qeelin jewelry : wulu, bo bo heart, and fishes
「Wulu」、「Je t’aime Bo Bo」、「Qin Qin」コレクションのネックレス

キーリンのお客様はどのような人達でしょう?

チャン:15年が経ち、多くのお客様と知り合うことができました。中には友人として親しくさせてもらっているお客様もいます。キーリンのお客様は現代的な中国人女性で、トレンドを追うのではなく、作る人達。何が欲しいのかわかっている人達ですね。彼女たちはデザインの美しさだけでなく、その背後にある象徴的な意味も評価してくれます。貴重な高級ジュエリーを愛してやまない世界中のジュエリーファンに、中国の心を力強く提示したのはキーリンが初めてです。中国人の誇りが高まりつつある今、これは重要なことで、私たちのお客様は中国的なデザインと国際的に通用する技術面のレベルの高さ、それに遊び心を感じさせ、シーンを選ばないモダンな要素を組み合わせたキーリンのジュエリーを好んでいるのです。

20年前、人々はジュエリーを不変の存在、子孫に受け継がれるものと考えていました。しかし今日、特にミレニアル世代の間では、投資の対象としてのジュエリーより、自分へのごほうびとしてのジュエリーに興味を持つお客様が増えています。若いお客様は自分が今、身に付けられるもの、ファッショナブルなものにお金をかけたいと考えているのです。もちろん、ジュエリーは投資としても使えますが、金庫にしまうのではなく、身に付けるべきものなのです。

クリストフ・アルトー:私たちは中国人のお客様、特にミレニアル世代のお客様に重点を置いています。地理的に特に重視しているのは中国本土ですが、お客様が旅行することも考えています。ミレニアル世代は頻繁に旅行しますからね!この世代のお客様はソーシャルメディアにつながり、消費に対して最も積極的です。また、現代的な中国のジュエリーを好んで身に付けています。私たちは、キーリンが老舗の欧米ブランドに変わる存在となりつつあると考えています。私たちのブランドはお客様の心を動かしているのです。キーリンは国際的なインパクトを持った中国のブランドと言えるでしょう。

これまでのキーリンの発展を支えた重要なロードマップは何でしたか?

アルトー:私たちは現実的な形でブランドのマネージメントを行っています。現代的な中国人女性を対象に、彼女たちがどこにいてもリーチできる状態でありたいと考えています。中国国内であれば、ショッピングモールや、アリババの天猫(TMall)といったオンラインショッピングモール、そしてWeChatのようなソーシャルプラットフォームが挙げられます。私たちは過去5年間に中国で数十点におよぶ販売拠点をオープンしたほか、2019年7月にはパリのヴァンドーム広場にもブティックをオープンし、高級ジュエリー店が集まるこの地に自分たちの名を刻みました(Focusの記事を参照)。現在、ブランド・アンバサダーを務める中国人女優の劉詩詩(リウ・シーシー)は中国ですべての年齢層に幅広く知られており、一流のセレブリティとみなされています。劉はキーリン・ウーマンのDNA、つまり独立心や自信を持った現代の美しいアジア人女性で、内なる美と洗練されたセンス、謙虚さを秘め、さらにはキャリアにおいて確かな成功を収め、またプライベートでも家庭に恵まれている、そんな女性を体現しているのです。中国文化の美しさを世界と共有する、という使命を持ったキーリンに劉が加わっていることを、私たちは誇りに思っています。

チャン:劉が中国人であるというのも重要な要素ですね。それから、キーリンは男性のセレブリティが女性向けのジュエリー・コレクションやユニセックス・アイテムのマーケティングに力強い影響を与えることを認識してきたブランドの一つです。キーリンの2019年の男性ブランド・アンバサダーを務めた肖戦(シャオ・ジャン)は大きな成果を上げてくれました。肖戦がアンバサダーを務める間、彼のより若い女性ファンがキーリンに触れ、すぐにお得意様となってくれました。また、キーリンは韓国のポップシンガーであるチョン・ソミやAileeなど、グローバルに活躍する才能の持ち主にもキーリンのジュエリーを提供することで、国際的なイメージを保つようにしています。

Liu Shi Shi Qeelin ambassador
新ブランド・アンバサダーを務める中国人女優の劉詩詩(リウ・シーシー)

最後に、今後、最も重要な優先課題は何でしょうか?

アルトー:キーリンの持つ可能性を解き放つ、ということに尽きます。したがって、最優先事項は引き続き中国でのブランド認知や、お客様の欲しいと思う気持ちを高めることとなります。今後もウェブ上で精力的にコミュニケーションを行うと共に、新しいデザインや素材を通じて新鮮さを維持し続けていきます。たとえば、先ごろ発売した「Wulu」のカラーリングのシリーズは赤メノウやブラックオニキス、翡翠といった大胆な色を揃えています。それと同時に品揃えや価格面の位置付けに関して合理化を進めながら、中国の主要、準主要都市にブティックを広めていく予定です。中国の産業がそれぞれのセクターをリードする役割を果たすようになり、また中国の人々が自国のブランドの方を好むようになる中で、キーリンはこの大きな勢いを持ち始めた潮流の只中にあります。そして、この流れはまだ始まったばかりなのです。