ラグジュアリーの新たな表現

トラベルリテール事業はグローバル市場において年間8%の成長率を記録し、大きな飛躍を遂げています。今後の成長が期待される流通    チャネルには、観光客向けの免税店を展開する空港や繁華街のギャラリーショップなどがあり  ます。ケリングとグッチのトラベルリテール事業 責任者を務める、セヴリーヌ・ランティエが、この戦略的市場が持つ可能性を引き出すグループの計画について語ります。

Séverine Lanthier
Travel Retail Director at Kering and Gucci

トラベルリテール市場に見られる大きな傾向は何ですか?


トラベルリテール市場は航空交通量の変動と密接に関連しており、堅調な成長を見せています。2017年には、前年比7%増の35億人を超える世界中の人々が飛行機を利用しており、海外 旅行者数も8.5%増加しています。飛行機を利用する旅行者の増加と共に、その消費額も増加しています。世界規模で見ると、フレグランスや化粧品、アルコール、タバコなどのあらゆる製品カテゴリーが含まれるものの、空港の営業利益は年間で7%増となっており、ラグジュアリー部門単独でもおよそ6%の成長を達成しています。こうした製品に対する需要全体の増加を考えると、この成長は今後より顕著になっていくと考えられます。今やミレニアル世代が空港における   全消費者の半分を占めており、旅行者の属性にも変化が見られます。そのため、新たな展望や慣行が必要となるでしょう。 

旅行者の消費習慣とその変化について教えてください

旅行者にはあまり時間がありません。繁華街の免税店を訪れる団体客は、最大45分間しか  買い物をする時間がないでしょう。空港にも同じことが言えます。一般的な乗客が出発時刻の 1時間半前に空港に到着すると仮定すると、すべての手続きを終えた後に乗客が買い物できる時間は最大30分です。さらにこうした消費者には、特定のニーズがあります。特に、乗客は機内に持ち運びしやすい商品を購入したいと考える傾向にあります。また、ギフト向けの商品を探している場合や、衝動買いというケースも多く見られます。各ブランドはこのようなニーズに対応   すべく、例えば旅行バッグに入るコンパクトな100 mlのフレグランスなどを提供しています。   ラグジュアリーアイテムの購入は現在に至るまで優先順位は最後となっていますが、消費者との溝は確実に埋まってきています。旅行者にとって飛行機に間に合うように搭乗することが最優先事項であり、次に格安のタバコ、アルコール、化粧品の購入を検討するかもしれません。高級品の購入は、前者に比べて重要度がはるかに低くなっています。持ち運びしやすく、ギフトとして  確実に喜ばれる高級アクセサリーやラグジュアリーアイテムは、トラベルリテールに最適な商品の為、これまで、各ラグジュアリーブランドはトラベルリテール部門において、ハイブランドの商品を格安価格で購入したいという消費者のニーズに応え、エントリーレベルの商品を提供していました。しかし現在、消費者は洗練された雰囲気、一流のおもてなし、多種多様な商品とカスタマイズ 可能なアイテムなど、旅行においても最高のラグジュアリー体験を求めるようになっています。 これを受けて、空港はラグジュアリーなショッピングモールへと変貌を遂げているのです。

トラベルリテール市場に対して、ケリングはどのような対策を取っていますか?

各ブランドは以前より独自の体制を整えていましたが、ケリングでは2016年後半にグループ全体の専門機関を設立し、全ブランドと連携しています。各ブランドだけでなく、ラグジュアリー商品に必ずしも馴染みがあるわけではない、トラベルリテール業界の主な企業ともコミュニケーションを図っていくことを目標としています。ブランドを集約化させることで、私たちはパートナー空港との交渉の合理化を図ることに成功し、ロンドン、バンコク、ローマでの新たなトラベルリテール    ブティックの展開につながりました。ケリングのトラベルリテール事業の可能性は、さらに無限に 広がっています。

ブランドとどのように連携を取っていますか?

各ブランドによるトラベルリテール戦略の策定と展開をサポートする一方で、その実行は     各ブランドに一任しています。ブランドにはそれぞれ独自のアイデンティティとヴィジョンがあり、 それがトラベルリテールのアプローチ方法に反映されています。トラベルリテールを世界規模で 商品を披露する場として捉え、何百万人という新規顧客にアプローチするブランドもあれば、  商品やそれに付随するキャンペーンに特化したソリューションを提案するブランドもあります。  いずれの場合も、空港を利用する見込み顧客に対して、新商品発表のためのポップアップストアをはじめとした様々な体験を提供することで、お客様とコミュニケーションを図る機会を最大限 確保するという考えが根底にあります。ケリングアイウェアは、トラベルリテールに特化したグッチの新たなサングラスコレクションを発表しました。

空港による新たなアプローチはありますか?

アジア地域にはトラベルリテールに配慮したデザインのハブ空港が新設されるなど、空港に   おけるショッピング環境は、過去10年間で劇的な変化を遂げました。逆に言えば、まだ開発が 進んでおらず、今後発展を遂げる可能性が高い施設もあるということです。その一方で、パリの ロワシー シャルル ド ゴール国際空港の第1ターミナルなど、設備の最新化が難しいとされる 施設もあります。もう1つ注目すべきことは、免税店を利用する消費者は飛行機の乗客だけではなくなっているということです。免税店は、交通施設の一部からショッピングスポットへと独自の 発展を遂げています。こうした空港の環境は、大きな変革をもたらしており、ミレニアル世代は 従来のブティックより、いつでも入りやすい免税店のほうがラグジュアリー商品を購入しやすいと感じています。現在リテール事業の営業利益は航空事業とほぼ同じ水準であり、大きな収入源となっているため、空港は経営戦略を調整するなど、転換期を迎えています。

トラベルリテール市場における中長期的な目標を教えてください

私たちには大きな目標があります。この市場に多くの成長機会がある理由はシンプルで、旅行者は飛行機を利用するために、今後も常に個人が移動しなければならないということです。次の ステップはデジタル化ですが、トラベルリテール市場におけるデジタル化は非常に遅れています。空港の店舗は、店舗販売の最後の砦だと考えます。