21世紀におけるトラベルリテールのキーワードは、中国人客、ミレニアル世代、デジタル化

「乗客数の増加、リテールスペースの改善、 デジタル化の役割の肥大化に後押しされ、 トラベルリテールはまさにビジネスチャンスの宝庫となっています。中国人客とミレニアル世代を引き付けることができれば、その可能性はさらに高まるでしょう」。そう語るのは、トラベルリテール業界を リードする企業向けメディア「The Moodie Davitt Report」の創設者、マーティン・ムーディです。

Martin Moodie
Founder of The Moodie Davitt Report

今後の発展において、トラベルリテールがこれほど戦略的に重要な分野となっている背景は  何ですか?

マーティン・ムーディ:トラベルリテールは、世界をリードする多くのラグジュアリーブランドにとって非常に大きなチャンスとなっています。その理由は第一に、潜在顧客基盤が持続的に増加していくことがほぼ当然だと言えるからです。ACI、IATA、UNWTO、ボーイング、エアバスなどが行った乗客数の短期的および長期的予測を見ると、乗客数が今後も堅実に増加していく見込みであることがわかります。2017~2036年の間の飛行機の乗客数の複合年間増加率は、4.7%と予測  されており、急成長中のクルーズ産業においても、同様の増加率が見込まれています。見込みの高い潜在顧客のいる現地市場もいくつかあります。当然ながら、そうした潜在顧客を実際に 顧客として取り込むのが難しいのですが、これについては後ほどお話しします。

次に、これらの乗客がどのような人たちであるかということについてです。グローバルなトラベル 市場は興味深い分野であり、絶えず人が行き交い、多数の人々があちらこちらへと動き回ります。その多くが重要な新興市場で、ショッピングの観点において一貫して消費額が高い傾向にあり ます。中国人客が最も顕著な例ですが、ロシア人、インドネシア人、ナイジェリア人など、その他にも多くの例が挙げられます。今日のトラベルリテール市場は、このような顧客に対応すべく、    さまざまな世界の一流ブランドを魅力的な環境と価格で提供しており、さらに保証やアフター  サービスを備えています。

多くの調査で、旅行者が商品をギフトとして、または自分のために購入するのかといった傾向が明らかに示されています。トラベルリテール環境の質が劇的に向上したこと、そして空港にとってリテールによる収益の重要性が増したことにより、近年サービスが大幅に改善されました。この 傾向はこれからますます加速するでしょう。

トラベルリテール自体が重要な販売チャンネルとなっているだけでなく、各ブランドにとって     グローバルなショーケースとして重要な役割を担っており、度々“ショーウィンドウ”効果として引き合いに出されます。結局のところ、旅行者は動く国内市場の顧客なのです。空港という環境の プレゼンスは、現地市場のアイデンティティを高めてくれるのです。

市場は近年どのように変化しましたか?
近年、乗客数が大幅に増えています。昨年は8%増加し、2018年も同様の伸び率が見込まれています。21世紀に起きた特に大きなダイナミクスは、中国からの買い物客の増加でしょう。    中国人が買い物をするいかなるトラベルリテールにおいても、彼らの全体支出額は乗客数が  占める割合を優に上回ります。

他にも、すべてここで挙げることはできないほど多くのコンシューマーダイナミクスがあります。   しかし確かなことは、トラベルリテールを明るい未来に導くためにミレニアル世代が極めて重要 だということです。ミレニアル世代の消費者の多くは、彼ら以前の世代とは異なる願望や欲求、 買い物習慣を持っています。今後は、彼らのニーズを理解し、対応することが重要です。

プラットフォームという点においては、実店舗でのショッピングとバーチャルショッピングを進化  させることが鍵となります。これまで従来型の実店舗だけによるビジネスを行ってきたトラベル  リテールは、着実にデジタル要素を加えるようになりました。それは、多くの現地市場の      リテーラーに大きな打撃を与えたEコマースに対する守備的な動きであるとともに、旅路全体において、消費者に働きかける手段でもあります。重要なのは、両者の良いところを取り入れることだと思います。トラベルリテールは、アリババやアマゾンでは体験することのできない雰囲気、香り、味わい、人間同士のやりとり、より洗練された体験などを提供しています。当然、他では手にすることのできない“トラベルリテールの限定品”もあります。

したがって、21世紀のトラベルリテールにおける3つのキーワードは、中国人客、ミレニアル世代、デジタル化と言えるでしょう。。

ラグジュアリーブランドは、この市場をどのように捉えていますか?
ますます多くのブランドが、この市場に注目しています。大手トラベルリテーラー2社が、     ラグジュアリーグループの一部になり、空港のリテール環境はますます洗練され、シドニー空港、ヒースロー空港、香港空港、チャンギ空港をはじめ、多くの空港で独立型のラグジュアリー   ブランド専門スペースが設けられるようになったため、多くのラグジュアリーブランドの間でトラベルリテール事業に対する認識が変化しました。例えば、これまでずっと空港のリテールチャンネルを避けてきたロレックスが、香港国際空港に2階建ての壮大な店舗を設けたほどです。

トラベルリテールにおいて重要なハブ空港はどこですか?
たくさんあります!たいていの場合、重要なのはトラベルリテール店舗がどこの国にあるかでは なく、どのような国籍の人々が訪れるかです。ヘルシンキ空港がその良い例でしょう。ヘルシンキ空港を運営するフィナビアは、このハブ空港を東西の国々を行き来する人々の乗り継ぎ地点  としてうまく位置付けしました。ちょうど2、3週間前にヘルシンキ空港を訪れたのですが、その際、中国人の乗客(と買い物客!)の多さに驚かされました。イスタンブール空港、ドバイ空港、香港空港も同様です。売上高という点では、毎年、最も大きな単一空港として仁川空港とドバイ空港がトップの座を競い合っています。

トラベルリテールで最も人気のある商品は何ですか?
最も人気が高いのは化粧品です。ジェネレーション・リサーチ(2017年度の免税店およびトラベルリテールの売上高)の調査によると、化粧品が全体売上の約36%を占め、続いてワイン&蒸留酒が17%、そしてファッションおよびアクセサリーが14%となっています。しかし、売上高の比率は  ロケーションによって異なり、時計、ジュエリー、菓子類、専門品、ファインフードといった     カテゴリーも大幅に売上を伸ばしています。

どんな新しいサービスが提供されていますか?
絶大な勢力を誇るオンラインショッピングと競いながら、トラベルリテールが発展していくために 間違いなく重要となるのは、新しいサービスの提供です。カスタマイズサービス(エングレービング、カリグラフィー、パーソナルショッパー、コンシェルジュサービス、ロイヤリティプログラムなど)は、単調で面白みのないものになりがちなショッピング体験を改善するための対応策となります。  店舗内で提供できる体験は、例えば試飲・試食やマジックミラー、ソーシャルメディアを活用した楽しさあふれる情報発信、教育的な要素、そしてもちろんファーストクラス向けのサービスなど様々です。買い物だけでなく、夢中になれるような体験や、楽しく、親しみやすい体験、ただし、短時間で済むもの(乗客が飛行機に乗り遅れてはいけませんから)を提供しなければなりません。

この分野は今後どのように発展していくと思いますか?
全体的に大幅に伸びていくでしょう。トラベルリテールに特化した出版社として、私自身もその “当事者”ですから、決して軽い気持ちでこのようなことを言っているわけではありません。私は、自分よりも長生きするであろう成長産業に貢献したいという思いで、2002年に会社を設立しま  した。それ以来、私の気持ちは変わっていません。最優先課題もこれまで通り、「もっと多くの  乗客を買い物客に変えるには、どうすればいいか」です。前年よりも多くの乗客を見込む    “エレベーター”効果に頼るのをやめて(“専属”市場になるのではなく、顧客を魅了することを  目指す)、早い段階から乗客を取り込み、より効果的に彼らを納得させ、引き付けるような   サービスを提供することに積極的に取り組む必要があります。

対立し合うアナログとデジタル(人間性 vs デジタル)は、バランスの取れたオンラインと     オフラインのサービスを提供することで、どんどん調和してくでしょう。今後、トラベルリテールの店舗は、オンラインストアでは提供できないサービスを提供することにますます重点を置くようになり、そのようなサービスがこれまで以上に重要になるのです。業界の利害関係者は、各自の分け前を競い合うのではなく、全体として成長していくために力を合わせるようになるでしょう。航空会社と空港は、リテールパートナーとして協力し合うことができますし、そうすべきです。両者とも、単にサービスを提供する段階が異なるだけで、同じ顧客にサービスを提供しているのですから。

今後、“マーケットプレイス”という概念が高まっていくでしょう。オークランド空港、チャンギ空港、フランクフルト空港、ヒースロー空港のような先進的な空港は、従来の“箱に詰められたリテール”という概念の枠を超えようとしています。また、エアアジアは“Amazon of the skies(空の上の   アマゾン)”を立ち上げようと試みています。彼らは、自分たちが乗客、デジタル化のノウハウ、  実現させるための能力を備えていることを心得ているのです。

この分野は、まだまだ開拓の余地が十分にあります。