ラグジュアリーの可能性を広げる事業

アエロポルティ・ディ・ローマ(AdR)は、旗艦空港であるフィウミチーノ空港で ショッピングエリアのインフラと運営サポートを提供する新しい     リテール戦略を打ち出しました。この新しい空港環境でラグジュアリーリテールが起こすであろう変革と、果たす中心的な役割について、AdRのジェネラルマネージャーを務めるジャンルカ・  リッタールが語ります。高額消費者の乗客に対し、ラグジュアリーな空間でショッピングを楽しむ時間と機会を提供することを焦点にしています。

Gianluca Littarru
AdR’s General Manager

過去3年間で、トラベルリテールはAdRでどのように発展してきましたか?
私たちはパッセンジャーエクスペリエンスの質を向上させるため、航空事業とリテール事業の両方に関して我々の主要空港であるフィウミチーノの戦略を大きく変更しました。運営の観点から、  ショッピング施設を搭乗エリアから取り除き、1つのエリアに集中させることにしました。その第一歩が、シェンゲン圏外へ旅立つ乗客向けに新設された空港ビルです。多くの人が通過するこのエリアは、これまで以上に消費額の高い乗客に重点を置いています。そのため、プロダクトミックスを適合させ、ラグジュアリー商品のシェアを大幅に拡大させる必要がありました。

フィウミチーノでのトラベルリテールに対するアプローチについて教えてください
私たちは航空事業の運営とリテール事業をシームレスに統合させることを目的としています。   お客様が空港でお目当てのブランドの店舗を見つけ、買い物する時間を確保できるよう、空港  到着後のすべてのプロセスは素早くスムーズに行われなければなりません。同時に、収益の約  3分の1を占める中核的なリテールカテゴリー、そして主な収益源ではないものの、重要な    カスタマージャーニーの一部となっている飲食施設にも、重点を置く必要があります。例えば、  ローマの空港では乗客はイタリア料理を味わえる店を探しています。とは言え、私たちが特に必要としているのは、ラグジュアリーリテールです。空港ではブランドナラティブおよびブランド体験が、 お得な価格で商品を提供する免税店の強みと組み合わさり、リテールビジネスの成長を促進   させる重要な要素の1つとなっているのです。具体的には、中国行きの飛行機を利用する乗客  1人の購入額は、他の長距離便を利用する乗客の5倍となっています。

ラグジュアリーリテールを発展させていくための戦略を教えてください
いくつかの側面がありますが、まずはインフラを整えることです。2フロアからなるショッピングモールの中には、ラグジュアリーブランドの店舗が並ぶエリアがあり、そこにはリテーラーの観点から、各 ブランドをポジショニングする最適な環境と機会が作り出されています。リテールエリアでの“滞在時間”をできるだけ長くするため、私たちは出発の40分~1時間半前になるまで搭乗ゲートを   お知らせしません。一方で、乗客が必要とする施設がすべて整っており、この時間が空港で過ごす最も快適な時間なるように努めています。空港には、パーソナルショッパーとしてお客様をサポートする多言語対応可能なスタッフもいます。中国人の乗客が最も消費額が高いことから、現在  中国語スタッフが常駐していますが、今後韓国語スタッフも追加する予定です。他にも、乗客を ラグジュアリーリテールに引き寄せるため、デジタル広告やソーシャルメディアも活用しています。

実際にテクノロジーはどのように機能していますか?
例えば、20時に出発する中国行きのフライトの場合、早い方だと15時30分には空港に到着   します。このようなお客様が出国後のエリアでより多くの時間を過ごせるよう、チェックイン     カウンターを早く開け、出国手続きを手早く済ませられるようにしています。さらに、広告スクリーンやテレビなどのデジタル機器を使って、ゲートへ向かう途中にあるブランドの宣伝を行います。   フローの測定とインフラに多大な投資を行っていますので、ある時間帯にそのエリアに来ることが 見込まれる乗客を特定する特別なサービスを提供することも可能です。

そうしたサービスをブランドに対してどのように提案していますか?
私たちは、広告を分単位で売るのではなく、特定のメッセージに触れることになる各ブランドの   ターゲットセグメントにおける乗客数で広告を売ることを目的としています。顔認識を伴わないWiFiを使った三角測量とその他のテクノロジーを駆使することで、正確に人数を数えることができたり、搭乗券のスキャンやある特定のフライト用のチェックインカウンターおよび搭乗ゲートの場所などのデータを使って三角測量することも可能です。私たちはデジタル機器を活用して広告を一体化  させることで、リテールの可能性を最大限に広げられると強く信じています。他にも、宣伝を促進 させるため、提供する無料WiFiのスプラッシュ・ページやアプリ上にも広告を掲載しており、これにより多くのコンバージョンが生まれています。また、中国のWeChatをはじめとするソーシャル    メディアも積極的に活用しています。

ラグジュアリーリテールをサポートするために、他にどのようなことを行っていますか?
ラグジュアリーブランドは自分たちの店舗のポジショニング、運営方法に厳格ですので、彼らに  とって理想的なコンディションを提供する必要があります。私たちは各ブランドのポジションングや インフラとの相互作用に関する要求に対応するスキルを備えています。例えば、売り場を人目に さらしたくないブランドもあります。また、製品カテゴリーごとの売上に関する分析サポートも提供していますので、乗客数がピークとなる時間帯/時期の運営に役立つことも可能です。さらに“ローマ 空港ラグジュアリーガイド”といった、ラグジュアリーブランドの主要な商品に焦点を当てた乗客向けの新しい雑誌の発行や、ダウンタウンにある店舗との差別化を図ることを目的とした付加価値税分(22%)をすべて割引するキャンペーンなどといった新しいアクティビティを行うことで、ブランドを サポートしています。しかし、“店舗内での体験”については各リテーラーに任せています。

今後、乗客数の動向はどうなると思いますか?
一般的に乗客数の伸び率は様々です。シェンゲン圏内は1桁の伸び率であるのに対し、     シェンゲン圏外は2桁で、特に中国と北米向けのフライトを利用する乗客数が多くなっています。次のステップは、3年後にシェンゲン圏内のフライト向けの新しい商業エリアをオープンさせること です。今後15年間で、年にさらに2千万人の乗客を収容できるようになるでしょう。その後は   新しいターミナルが必要となります。

トラベルリテール事業が航空事業よりも収益性が高くなることはありえますか?
飛行機の運賃次第ですが、そのような可能性はあると思います。リテール事業から得る収益は そのまま純利益となりますので、私たちにとって大きなモチベーションとなっています。それに、  従来型の小売業のビジネスモデルが次々と崩壊していく中で、空港と旅行は強固なビジネス   モデルの1つとして残ると思います。なぜなら、空港では消費者に十分な時間があるうえ、販売に付随する強力なエンターテインメントと体験の原動力があるからです。また、免税によって税制上の優遇措置も受けられます。今後、空港は安全に飛行機に搭乗することもできる、完全な機能性を持ったショッピングモールになるべきだと思います。

これから推進していくうえでの最終的な目標を教えてください
土地とターミナルのスペースという制約がある中で、乗客の消費額と知覚品質の両方を最大限に高めることです。それを達成するには、パッセンジャーエクスペリエンスを保持しなければなりま  せん。結局のところ、私たちはそこで評価されるのですから。リテールや休憩エリアを増やしすぎて、飲食施設を十分に設けなければ、人は買い物しなければならないというプレッシャーを感じて   しまい快適性が低下してしまいます。また、すべての乗客がラグジュアリー商品を買いたいと   思っているわけではないことも認識していますし、それを尊重しています。私たちのタスクは、    リテールの可能性を最大限に高めること。つまり、セキュリティチェックと出入国審査が効率良く 行われるようにすることです。私たちは乗客およびリテーラー(特にラグジュアリー業界)のための 価値を創出するウィンウィンの関係を築いていきたいと考えています。