ラグジュアリー・リテールがまだ商業施設を必要とする理由は何か

この5年間、新しい市場参入者や新しい場所、そして新たな購買習慣がラグジュアリー市場を劇的に変化させてきました。しかし今でも、ブティックは買い物客や観光客が出かける「目的地」であり続けています。今なお健在で、さらに適応していく商業施設。その方法と理由を解き明かします。

Saint Laurent Rive Droite store in Paris, France
Sergi Villar
Kering’s Real Estate Director

世界規模で進む都市化の流れ

都市化の流れは過去10年間にわたり加速しています。現在、世界の人口の約55%が都市部に暮らしており、2025年にはその割合が60%に上昇すると予想されています。このような現象は都市部において、百貨店やショッピングモールから多目的に使える複合的な都市開発へと不動産需要の変化をもたらしており、さらに最近では、シームレスにつながった一つの生活環境の中で人々が暮らし、働き、遊ぶという、あらゆる使い方を可能にした複合施設を求める動きを生み出しています。このような不動産のトレンドが映し出しているのは、人々がデジタル技術を通じて密接に結びつき、またモバイル技術を通じて機動力を高める中で公私の生活の境界線があいまいになった、都会的なライフスタイルです。また、都市化は歴史のある中心市街地のあり方を変えており、ラグジュアリー・リテールに対する非常に旺盛な需要を生み出した結果、意外な地域に高級ブランドのブティックが建ち並ぶ現状を生み出しました。さらに、その波及効果も表れています。こうした中心地にある販売拠点が高級品を切望する観光客の目的地となり、その流れからトラベルリテール市場は急速に成長し(2017年に対し+13%)、2018年には790億ドルの市場規模となっています(出典:Generation Research)。このトラベルリテール市場は空港といった交通の要となる施設における小売スペース需要も掘り起こしており、不動産はこうしたネットワークにおいてもブランドが拡大する場を提供できるでしょう。ケリングのリアルエステート・ディレクター、セルジ・ヴィラールは「歴史的に見ても、都市化はリテーラーの不動産戦略において最も大きな影響力を持つ要素の一つと言えます。そして今日、その都市化のペースは加速しているのです」と語っています。

ショッピングモールの変革

米国の不動産ディベロッパーはテナントがいなくなったショッピングモールを単純な小売施設から、周辺地域にとってショッピングや食事、エンターテインメントの中心地となるような複合的なプロジェクトへと変身させつつあります。世界的にも、文化とエンターテインメントに大きく比重を置いた同様のショッピングモールのプロジェクトが次々と立ち上げられており、例として香港のK11ミュゼアやドバイのメイダン・ワンが挙げられるほか、東京や横浜、大阪では電車の駅に隣接する都市型ショッピングセンターが若い買い物客をターゲットとする「ファッション・ビル」となっています。「消費者の購買習慣が進化していく中、不動産はリテール活動の合理化において重要な役割を担っています」とセルジ・ヴィラールは述べています。

 

Bottega Veneta store in Tokyo, Japan © Nacása & Partners Inc.
Bottega Veneta store in Tokyo, Japan © Nacása & Partners Inc.

まだチャンスのある中国

現在、中国における不動産の主な取り組みは、上海や北京、深圳、広州といった一線都市と呼ばれる大都市で展開される既存の高級ブティックのネットワークを最適化しつつ、二線都市である成都、杭州、南京といった都市に新たな旗艦店をオープンさせることにあります。ケリングは先ごろ、中国の主要な不動産ディベロッパーの一つである恒隆地産(ハンルン・プロパティーズ)と複数の都市、ショッピングモール、ブランドにまたがるパートナー契約を締結しました。中国政府は自国民に対し高級品を国外よりも国内市場で購入するよう強く働きかけており、昨年、高級品に対する関税や税金の引き下げを含む一連の施策を導入したことから、ケリングも同国での高級品の消費行動の変化に合わせてこのような戦略を取っています。中国人による高級品の購入において、国内市場での購入金額が占める割合は2017年の24%から、近い将来に50%に上昇すると予測されています(出典:Bain-Altagamma

同時に、中国人観光客が好む渡航先である東南アジアやオーストラリア、カナダといった地域での不動産投資も無視することはできません。「中国は今もなお、世界のラグジュアリー市場を成長させる重要な牽引役の一つです。そして買い物客がどこへ行こうと、商業施設は高級ブランドが商品を見せるためのショーケースを提供しなければなりません」とヴィラールは指摘しています。

 

Balenciaga store on Madison Avenue in New York, USA © Courtesy of Balenciaga
Balenciaga store on Madison Avenue in New York, USA © Courtesy of Balenciaga

重要なのはサステナビリティ

今、世界中が求めているサステナビリティにおいて、商業施設は照明や温度の管理を通じたビル関連の二酸化炭素の排出抑制や、水やガス、電力の使用量の削減、廃棄物の削減やリサイクルの推進を通じて、強力な牽引役となり得ます。また、こうした施策はビジネスにも影響を与えます。特に、年齢層の高い消費者と比べて環境に対する意識が高い若年層の消費者にとって、サステナビリティは重要な問題です。ミレニアル世代やZ世代はブランドのサプライチェーンや原材料の調達先、エネルギー消費や二酸化炭素の排出量、社会的責任やサステナビリティに対する取り組みなどをインターネットで調べるでしょう。そして調べた結果が何かを買うときの判断に影響するのです。「建物はブランドのサステナビリティに関する方針を物理的な形で具体化した存在です。だからこそ、資源のより効率的な使い方を実現する新たなビジネスモデルが求められています」とヴィラールは述べています。

Boucheron store on place Vendôme, Paris, France
Boucheron store on place Vendôme, Paris, France

若い顧客はオンラインストアと実店舗の両方を求めている

ブティックが単なる販売拠点であった時代は終わり、不動産ディベロッパーは高級感あふれる体験にふさわしい空間を持つ、デジタル面を強化した魅力的な場所を作り上げています。実際、ミレニアル世代やZ世代はオフラインとオンラインのショッピングを別々のものだとは捉えておらず、デジタルベースの買い物と実物を手に取れる買い物を融合させることで、ショッピング体験をより充実させたいと考えています。これに応える取り組みとして、例えばグッチがニューヨークのソーホーにオープンさせた1万平方フィート(約900㎡)の広さを持つブティック「ウースター(Wooster)」では、座り心地の良いソファや3Dスクリーンを用いた映像のインスタレーションが設置された店内で、スニーカーからドレスまで、グッチのあらゆるアイテムを販売しています。

人々が集う世界各地の主要都市の一等地に、数を絞りながらもより広く、また設備的に充実した旗艦店を建てることに重点を置いた不動産戦略の下、生まれた時からデジタルに親しんできた世代をブティックでのショッピングに引き込むため、レストランや映画館、書店や雑貨店、展示スペースといった快適な時間を過ごすための施設を今の不動産戦略の中に組み込んでいます。さらに言えば、実店舗に投資することでウェブサイトのトラフィックが増加、ブランド認知度も向上するという調査結果もあります。これは実店舗への投資が、インターネットのみをチェックしていた人々がブティックに足を向けるきっかけを作っているという証拠です。ヴィラールは「未来の不動産戦略は明確です。実店舗とデジタルのそれぞれの強みを生かした、本物のオムニチャネル体験を実現するプラットフォームを提供する、ということです」と結論付けています。

 

Gucci Wooster store in New York, USA © Courtesy of Gucci
Gucci Wooster store in New York, USA © Courtesy of Gucci


Portrait of Sergi Villar : © Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

Cover image: SAINT LAURENT RIVE DROITE
213 RUE SAINT HONORÉ 75001 PARIS