スタートアップ企業と共にイノベーションを加速させる

新しいテクノロジーと新たなビジネスモデルがラグジュアリー業界を再構築しつつあり、バリューチェーンの各段階に影響を与えています。これらの変化を熟知し、変化をケリングに取り込むためには、スタートアップ企業との連携が不可欠です。ケリングは、どのようにしてスタートアップ企業を見極め、協働しているのでしょうか。また、どういった影響があるのでしょうか。ケリングのベンチャー&イノベーション・ディレクター、ベンジャミン・ブイグが説明します。

Benjamin Bouygues
Ventures and Innovation Director

ケリング・グループ傘下のブランドを変革へと導く

3Dデザイン、人工知能(AI)、ブロックチェーンに共通することは何でしょうか。これらはすべて、ラグジュアリーのバリューチェーンに影響を与えるものです。また、いずれも新しいトピックであり、これらに関する知識は主にスタートアップ企業に集中しています。ケリングがこの分野のスタートアップ企業と手を組むのは、提携そのものが目的なのではなく、むしろケリングのイノベーション戦略の重要な一面であり、グループおよび各ブランドの変革を促進する手段だからです。ケリングのベンチャー&イノベーション・ディレクターであるベンジャミン・ブイグは、「スタートアップ企業と接することで、将来何が起こるかを見通すことができます。彼らとコラボレート(協働)することで、ケリングはあるテーマとその潜在的な影響をより深く理解し、特定のプロジェクトに最適なパートナーを見つけることができるのです」。ケリングは長年にわたり、イノベーションの鍵を握るプレイヤーたちと常に対話し続けてきました。ヨーロッパ、アメリカ、アジアでの積極的なモニタリング、Fashion for Goodなどのネットワークやイノベーションプラットフォームと築いてきた戦略的パートナーシップ、そしてキャセイ・キャピタルなどのベンチャーファンドへの投資により、グループは最も有望なスタートアップ企業を見つけ出すことができるのです。

2021年、ケリングはケリング・ベンチャーズを設立し、ラグジュアリー部門の未来のために革新的な新技術、ブランド、ビジネスモデルへの投資を目的としている。

変革を先取りする投資

ケリングはケリング・ベンチャーズを通じて、少数株主としてスタートアップ企業に直接投資しています。「こうした投資は、投資先企業の経営陣と連携し、プロジェクトの立ち上げや展開にしっかりと目を配り、イノベーションがケリングの活動に与える影響をより効果的に予測できるソリューションと言えるでしょう」と、ブイグは語っています。このような投資は、単に経験を共有することから、戦略的あるいは商業的な関係まで、互いに有益な協力関係を築くための出発点となるものです。最近では、牛の幹細胞を使ってラボでレザーを培養するスタートアップ企業、VitroLabsに投資しましたが、この開発はケリング・グループとラグジュアリー業界全体にとって重要な問題の解決を前進させる真の可能性を秘めています。

こうしたコラボレーションにおける共同出資者として、ケリングの目的は常に「スタートアップ企業の成功や業績を妨げることなく、戦略的な意味合いにおいてパートナーシップを最大限に活用すること」だと、ブイグは強調します。また、スタートアップへの投資にはその事業の特性を理解し、尊重することが不可欠ですが、エコシステムの地域的な特殊性を理解することも同様に重要です。このような理由から、ケリングは中国でチームを結成し、ヨーロッパや北米とは大きく異なる環境下で投資機会を発掘しています。主な取り組みとして、中国でサステナブルな開発に取り組むケリングの担当者と連携し、Plug and Playとのパートナーシップの下、サステナブルな開発という分野で革新的なスタートアップ企業を発掘するケリング ジェネレーション アワードでのプロジェクトの募集を実施しました。

Web3とリセール

ここ数ヶ月、ケリングとスタートアップ企業のコラボレーションは、中古市場とWeb3という2つの大きなトレンドによって形作られています。前者は、ほんの数年前まではラグジュアリー市場と非常に近い関係でありながらも別々の市場として認識されていましたが、今では完全に統合されつつあります。ケリングは2021年にヴェスティエール コレクティブに出資したことでこの市場での取り組みを加速させ、お客様に新しいサービスを提供したいブランドと共にいくつかのパイロット・プロジェクトを立ち上げています。もうひとつの重要なトピックであるWeb3は、ブロックチェーン技術がもたらすさまざまな可能性と関わりがあります。ラグジュアリーはこの技術にいち早く注目した業界の一つであり、ラグジュアリー分野のさまざまなものに適用できるとみられます。なぜ、ラグジュアリーブランドはWeb3に興味を持っているのでしょうか。Web3は、データセキュリティの面で可能性を秘めており、また作り手が自分の生み出したアイテムのコントロールを取り戻し、NFTを通じてデジタル空間における価値と希少性を再確立するためです。NFTとは、一人しか所有できないこの世に一つだけのデジタル資産のことで、この世界も今後ますます目が離せません。