新素材、ファッションの未来

イノベーションは、ケリングのサステナビリティに関する戦略において大変重要な役割を担っています。グループの環境フットプリント削減目標の半分は、イノベーションに依拠しています。新たな素材や製造工程の開発により、ケリングはサステナブルなイノベーションのトップランナーという地位を確立し、現代的で誠実、かつ責任あるラグジュアリーというビジョンを実現しています。ケリングのサステナビリティ・イノベーション・リーダー、アンヌ=ガエル・ラモーが、この重要なトピックについて詳しく説明します。

Anne-Gaëlle Lamor
Sustainability Innovation Lead

自然への影響を低減させる

ケリングの事業活動は、ラグジュアリー業界全般と同様に、高品質の天然素材(ウール、レザー、コットン、シルク)によって成り立っています。これらはすべて農業や牧畜業の産物であり、土壌や水質の汚染、温室効果ガスの排出といった点で環境に大きな影響を及ぼすことを意味しています。ケリングの事業活動が環境に与える影響を測定し、それを貨幣価値に置き換える先駆的なツール、環境損益計算(EP&L)によると、グループが自然界に与える最大の影響はバリューチェーンの上流、原材料の調達に関わっていることが分かります。ケリングのサステナビリティ・イノベーション・リーダーであるアンヌ=ガエル・ラモーは、「だからこそ、自然や生物多様性に与える負荷を軽減するイノベーションを見つけ出すことは、グループにとって非常に重要なのです」と説明します。ケリングが新しい素材を開発する際には、原材料と製造工程について規定したケリング・スタンダードに完全に準拠した素材を目指しています。このスタンダードでは、完全なトレーサビリティを提供し、リサイクル素材の使用を奨励し、化学物質の使用を制限することを定めています。

よりサステナブルな未来へのグループのコミットメントの元、2022年にケリングは、バイオテクノロジーを活用してラボ(研究室)でレザーを栽培するスタートアップ、VitroLabsに投資します。このアメリカの会社は、特にラグジュアリー業界向けに、「伝統的なレザーの見た目、感触、性能」を再現できる素材を開発することを目指しています。

ケリングはイノベーションを活用した次世代の素材を生み出すことで、ラグジュアリーアイテムに使われる素材の原産地や製造条件についてこれまで以上に関心を寄せ、またさまざまなソースから詳しい情報を入手しているお客様の高い期待に応え、よりサステナブルで魅力あふれるラグジュアリーを提供しています。このような革新的なソリューションによって、ケリングは知識を共有し、よりサステナブルな取り組みを採用するよう広く働きかけていくことで、ラグジュアリーおよびファッション業界全般の変革を推進することができるのです。「イノベーションを独り占めするのではなく、共有することで業界全体が前進する、という考え方なのです」とラモーは言います。

ノウハウとイノベーションを結集させる:現代的なラグジュアリーの鍵

既存のバリューチェーンとその並外れたノウハウは、ケリング・グループの各ブランドがコレクションを生み出す上で極めて重要な要素ですが、新素材の開発は、可能性を生み出すと同時に、これらの要素が抱えている課題を浮き彫りにします。ラグジュアリーアイテムの製造に関わる独自の技術や専門知識は、熟練した手仕事や道具、非常に厳格な品質基準も含めて、いずれも新素材を取り入れるという点で非常に重要な役割を担っています。また、「現代のラグジュアリーにおける課題は、伝統的な技術をうまく利用してイノベーションを起こし、新素材を従来の素材と共存させることです」とラモーは付け加えます。

バレンシアガの2022年WINTERコレクションのコートで、Moguと共同開発した菌糸を使った素材「EPHEA」を使用。

新しい開発工程のエコシステム

ケリングは新素材を開発するため、Fashion for GoodやPlug and Playといったパートナーが有する充実したネットワークを通じて、世界中から選ばれたスタートアップ企業と連携しています。新たな素材は数ヶ月、時には数年にわたる議論、反復作業、共同開発を経て、ケリングの各ブランドのチームへともたらされます。今度はそれを各チームがそれぞれのニーズに合わせて使っていきますが、たとえばバレンシアガが2022ウィンターコレクションで採用した菌糸体をベースとした素材、EPHEA®の場合、開発元のMoguと出会ってから最初のサンプルをバレンシアガの製造拠点で製作するまでに1年かかっています。

2013年、グループはサステナブルな素材と生地の調達や開発に特化したマテリアル・イノベーション・ラボ(MIL)を設立しました。ミラノにあるMILは、ケリング・グループ内のブランドのデザインチームがサステナブルな素材についてより深く理解できるようにするライブラリーであると同時に、非常に複雑なサプライチェーンにおける変革の推進役でもあります。

また、ケリングはグループ内の他の組織も活用しながら新素材の開発を進め、各ブランドのコレクションに使用されるあらゆる素材をカバーできるようにしています。その組織とは、ミラノに拠点を置きサステナブルな生地やテキスタイルを研究するMIL(マテリアル・イノベーション・ラボ)、同じくミラノにあり、グループのジュエリーの製作に必要な素材を研究するSIL(サステナブル・イノベーション・ラボ)、フィレンツェ近郊にある製品テストのためのTIL(テスティング・イノベーション・ラボ)などです。ケリングはこれらのリソースを活用し、プロセスを適応させることで、ラグジュアリーおよびファッション業界の刷新を主導するリーダーとしての役割をひと際強く示しています。ファッションやジュエリー業界の未来はかつてないほど、サステナビリティとイノベーションを真に融合できるかどうかにかかっているのです。