グッチがダイエット・プラダにInstagramアカウントを託した日

自社のInstagramアカウントを、ファッション業界において批評眼を備えることで有名なインスタグラマー「ダイエット・プラダ」(@diet_prada) に託すというグッチの決断は、決して安易に下されたものではありませんでした。しかし、結果としてダイエット・プラダとのInstagram・コラボレーションは、イタリアのラグジュアリーブランドであるグッチに多くの恩恵をもたらしました。

Instagram Gucci Prada

ソーシャルメディアは、ラグジュアリーファッションへ高い関心を持つ世界中のミレニアル世代と接触を図るための効果的な空間をもたらしてくれる一方で、情け容赦ない攻撃を受ける場にもなり得ます。グッチは、2018年春夏コレクションを準備する過程において、コレクションの背景に存在する創造的な哲学をオンラインとオフラインのオーディエンスに理解してもらう必要があると考えました。その挑戦において多くの課題に直面し、ソリューションは過激なものとなりましたが、大成功を収めました。

2017年秋は様々な要因によって、グッチをはじめ、業界全体にとって重要な時期となりました。9月下旬に開催されたミラノコレクションでは、いつものように興奮と熱狂、そしてファッションプレスからの大きな期待がわき起こりました。グッチはクリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレのもと、着実に成功をかみしめ、彼の次回のコレクションにも大きな期待が寄せられていました。

インスピレーションの源

一方でデザインのアプロプリエーションに対し、業界が高い関心を寄せ始めていた時期とショーは重なりました。アーティストやデザイナーは、文学から絵画、そして彫刻からファッションに至るまで、過去の時代の作品からインスピレーションを得てきました。

しかし業界では、必要な承認を得ることなく模倣したり、インスピレーションを得ているデザイナーは誰なのか、という議論が巻き起こっていました。この模倣文化は、ニュースやソーシャルメディアにおいて批判の的となり、ラグジュアリーブランドによるそうした行為は、ドレス1着ごと、ジャケット1着ごとに業界オブザーバーの指摘を受けることになりました。近年のファッションに鋭い批評をする“ダイエット・プラダ”のInstagramとツイッターアカウントは、そうしたコピーの暴露を主導していました。美術学士であるトニー・リューと製品開発者のリンゼイ・スカイラーによって、2014年に創業したダイエット・プラダは、今やソーシャルメディアで絶大な影響力を持つに至っています。

もうひとつの要因は、大胆で包括的なアレッサンドロ・ミケーレのクリエイティブな才能でした。彼のコレクションの一つの特徴は、文化や芸術、ファッション業界に関するリファレンスがデザインに組み込まれていることです。そのリファレンスは、彼が紡ぎ出す文章にも注意深く読み取ることができます。コレクションノートからソーシャルメディアへの投稿、更に記者会見に至るまで、グッチの創造力あふれるアレッサンドロ・ミケーレは、さまざまな方法で文化的な要素を組み込むことに労をいといません。過去と現在、本物と模倣を併置するこうした能力は、彼の創造的プロセスに欠かせない一部分です。

コミュニケーションにおける試練

しかし、このことは同時にある重要な問いを生じさせました。人々がアレッサンドロ・ミケーレのリファレンスを理解していると、グッチはどのように確信を持つことができるのか。彼の春夏コレクションと、コピーキャット・デザイナーの作品の混同をどのように回避することができるのか。今回のコレクションには多くのリファレンスや、引用、およびコラボレーションが組み込まれていたため、この問いは核心を突くものでした。

答えは、成功することがとても稀な“試練を機会に転換する”という模範例でした。ダイエット・プラダにグッチのInstagram・ストーリーのアカウントを一日乗っ取ってもらい、彼らがすべてのリファレンスを見つけることができるか試してみてはどうだろうか。それは一見、ペットのうさぎの世話を密猟者に頼むようなものと思うかもしれません。ダイエット・プラダはファッション業界の広範な知識を持ち、コピー商品をほぼ見逃すことなく、ディテールを見分ける目を持っています。その明晰さこそ、ダイエット・プラダがグッチの理想のパートナーとなりえる要因でしたが、それだけが両者が共有する特性ではありませんでした。ダイエット・プラダが自身のことを、業界をかく乱する者であると考えるのなら、グッチも同様に様々な意味でそのように考え、両者はそれぞれのオーディエンスに向けた開放性と包括性への深い信念を共有しています。ダイエット・プラダのようなインフルエンサーと協力することで、グッチはアジェンダに従うのではなく、設定する機会を見出したのです。

「当時、”模倣“という正しく理解されなければ否定的な考えを生じさせる可能性のある概念について、熱い議論が交わされました」と、グッチのグゼクティブ・ヴァイス・プレジデント兼チーフ・マーケティング・オフィサーであるロバート・トリフスは説明しています。「アレッサンドロは、デザインプロセスにおけるアプローチ方法についてオープンです。それを確実に皆さんに理解してほしかったのです。そのため、透明性に欠ける模倣について分析するダイエット・プラダのようなプラットフォームと組むこと以上に良い方法はないと確信しました。私たちは、広く認められている業界の評論家に常に関心を持っており、ダイエット・プラダはそのひとつなのです」

開放性の精神

具体的なプロセスは、グッチがダイエット・プラダに、ある一定の期間とポスト数を与え、それらの内容について完全に自由な裁量権を与えるという率直なものでした。結果的に大成功を収め、24時間のうちにそれらのポストは100万回以上閲覧されました。同様に重要だったのが、ダイエット・プラダがショー当日に自身のツイッター/Instagramアカウントにグッチのアプローチを熱狂的に支持した投稿をしたことでした。「コレクションを分析して、リファレンスを見つけ出すことをミッションとして、グッチに招待されました。その透明性には本当にワクワクさせられます。これこそ本来あるべき姿なのです」

予想通り、リファレンスであふれたショーでした。たとえば、1980年代にゲームセンセーションを起こしたセガのために作られたフォントを使用した遊び心あるグッチのロゴや、エルトン・ジョンが以前に使用した衣装へのオマージュなどが登場しました。(アレッサンドロ・ミケーレは、今年の後半に行われるエルトン・ジョンのフェアウェル・ワールドツアーに向けてコレクションをデザインしています)これらの引用はすべて、ダイエット・プラダの眼を通して世界のオーディエンスに発信されました。

振り返ってみると、このプロジェクトでは戦略的にも戦術的にも、ゴールが達成されました。

「私たちにとっての真の目的は、透明性と包括性を実証してみせることでした。このプロジェクトはリファレンスやオマージュという問題に対し、前向きな対処をする後押しとなりました」と、ロバート・トリフスは述べます。「そういった意味で、今回の施策は私たちのイメージに広く貢献しました。コレクションについて言えば、最も重要で興味深いリファレンスのいくつかを伝えることができ、また、今回のダイエット・プラダのプロジェクトを通じて、今日のソーシャルメディアで生じていることを受け入れなければならないと、強い信念を新たにさせられました。ソーシャルメディアをやめてしまったり、無視することはできません。同時に、リスクを冒すことを恐れてはいけないのです。リスクを冒し、開放性と透明性を維持する意欲があることこそが、ミレニアル世代が惚れ込むブランドに期待していることなのです」