“メイド・イン・イタリー”の意味

複数のハイエンド・セクターにおいて、100以上の純然たる“メイド・イン・イタリー”のブランドを代表、保護し、奨励しているアルタガンマ財団。同財団のジェネラル・マネージャーを務めるステファニア・ラザローニが、イタリアの文化的・創造的企業のネットワークにおける成長と競争力の向上を促進するという同財団の使命と、その方法について語ってくれました。

Stefania Lazzaroni
General Manager of the Altagamma Foundation

“メイド・イン・イタリー”というラベルが表すものとは何でしょうか?

ステファニア・ラザローニ:“メイド・イン・イタリー”は単なるラベルではありません。「Bello, Buono e Ben Fatto (良いもの、美しいもの、よくできているもの)」という価値観を結集させた、ビジネスのあり方なのです。

確かに、“メイド・イン・イタリー”とは、ファッションから食品、デザインからホスピタリティに至るまで、イタリアで生み出された質の高いもの全般を指しています。ですが、この言葉は、イタリアのラグジュアリーの伝統的な基盤である美意識や製造面における品質の高さを意味すると同時に、今日ではサステナビリティやインクルージョン、他者への敬意といった概念も含めた「良いもの」であることを意味しているのです。

“メイド・イン・イタリー”であること自体が、我が国特有の価値観や揺るぎない「イタリアン・スタイル」を象徴する一つのブランドとなっています。文化や芸術、歴史的・文化的伝統の豊かさ、無理強いすることなくあくまでも自然な形で美を創造する並外れた能力、そして創造力や製造技術とたゆまぬ革新の融合こそが、イタリアの真髄と言えるでしょう。これが、私たちが世界にもたらす「ソフトパワー」なのです。

イタリアがラグジュアリーの中心地である理由は何だとお考えですか?

この「ソフトパワー」に加えて、イタリアにはハード面でも重要な特徴があります。我が国のハイエンドな産業には、テキスタイルや家具、靴、ジュエリー、陶器、ボート、自動車、ワインといった製品をデザイン、製造する業界トップクラスの企業が含まれています。これらの製品はそれぞれ異なる地域で作られており、またほとんどの企業が家族経営からスタートしています。現在、これらの企業が一体となって1,150億ユーロの価値を持つ多様で広範囲にわたる産業セクターを構成しており、その規模はGDPの約7%を占め、また雇用者数も50万人を超えています。また、2020年を除き、このセクターは過去30年間にわたって年率5%~6%の安定した売上成長率を維持しています。

このような好業績の鍵を握っているのが、お客様が何を求めているかを理解する能力です。このセクターを支える消費者は、変化し続けています。今日、ラグジュアリーグッズを買い求める国際的な消費者は、より若く、デジタル志向が強く、またその多くがアジア人です。彼らは環境や他者への敬意など、新しい崇高な社会的価値観を持っており、“メイド・イン・イタリー”のハイエンドな製品にも、同じ価値観が表現されていることを求めているのです。彼らの声は重要です。私たちは今後4年間の業界の成長の180%相当を、Y世代とZ世代の消費者が生み出すと予想しています。

最後に、イタリアがラグジュアリーの世界で真にユニークな存在である理由として、2つの重要な要素が挙げられます。1つは、世界に誇る比類なき歴史的遺産の存在です。その歴史はローマ帝国の時代からルネッサンス期へと続く自然や芸術の美しさ、そして音楽にオペラ。さらには、現代のファッションデザイナーたちに至るまで続いています。また、食や家族を大切にする文化的伝統、西欧文明の基盤の大半を築き上げた豊かな歴史などが挙げられます。

これらが一体となって、揺るぎのない美意識や文化的感性と、イタリアの地に深く根ざしたクラフツマンシップという確かな遺産を育んできました。

そしてもう1つは、非中央集権的な産業モデルです。卓越した技術力を持つ各地方を基盤とし、全国各地で地域ごとに専門に特化した製造体制を構築することにより、企業がそれぞれのビジネスに最適な方法でデザインや生産を行える柔軟な体制をとっていることが挙げられます。

イタリアがラグジュアリーのリーダーであり続けるために、克服すべき課題とは?

1つ目の大きな課題は言うまでもなく、今、誰もが直面している新型コロナウイルスの大流行です。ラグジュアリー産業に関して言えば、世界全体で20%以上の落ち込みがあり、またホスピタリティ産業など特定の分野はさらに大きく落ち込んでいます。しかしながら、実際のところ、新型コロナウイルスはすでにその兆しが見えていたトレンドを加速させたに過ぎません。

これらのトレンドのうち、デジタル変革とサステナビリティの2つは、今のこの状況を賢く乗り切れば、回復を促し、未来へとつなげる原動力にもなるでしょう。これらは私たちの重要な課題であり、また新型コロナウイルスの大流行による経済的・社会的ダメージを修復し、現代的でよりサステナブルな欧州の基盤を築くために欧州連合が打ち出した復興計画「ネクスト・ジェネレーションEU(NGEU)」の中心にもこれらの課題が据えられています。

また、デジタル変革は製品の製造、流通、コミュニケーションのモデルに影響を与えることから、今後の成長の鍵を握っていることは明らかです。この極めて重要かつ複雑な変革を進めるためには、既存の組織モデルや法律上の枠組みを見直す必要があります。例えば、イタリアの産業界では、人工知能をビジネスモデルに組み込むためのテクノロジーに多額の投資を行っていますが、それと同時に、従業員の職能の再開発やスキルアップなど、人的資本への投資も行わなければなりません。

実際、イタリアでは、特に技術的・専門的なスキルを身につけるための人材育成に関して、危機的な状況が迫っています。現在、若年層の失業率が30%に達している一方で、優秀な人材の需要は高まっています。アルタガンマ財団とスキーラ社による2019年の労働調査(I Talenti del Fare- “The Production/Creative Talents”)では、2023年までに7つの市場セグメントで23万6,000人、ファッション業界単体では4万4,000人のプロフェッショナルな経歴を持つ人材が必要になるとされています。新しい技術によって、これらの仕事は現代の若者にとってもより興味を惹きつけるものとなるでしょう。アルタガンマ財団はイタリア政府と協力し、企業と地元の学校とを結びつけ、求職者にハイレベルなトレーニングを提供できるよう取り組んでいます。

さらに、社会の変化やY世代、Z世代の消費者の新たな価値観により、サステナビリティを重んじることがより重要になっています。歴史的に見ても、イタリアの企業はサステナブルなやり方で経営を行っており、地域との深い結びつきを守りながら、従業員、そして彼らが暮らし働くコミュニティを支援してきました。しかしながら、現在、アルタガンマの加盟企業のうち、国際的に認められた基準に沿った持続可能性報告書を発行しているのは35%に過ぎません。サステナビリティに関する取り組みを本気でアピールするには、この点も克服しなければならないでしょう。

最後に、観光業は国民経済、特にラグジュアリー・セクターにとって大切な資産です。パンデミックが発生する以前は、イタリアにおけるラグジュアリーグッズの売上の60%をイタリア人以外の観光客が占めていました。安全に観光を楽しむための状況を整えるという課題に、すべてのEU加盟国が取り組むことになるでしょう。

イタリアのブランドにとって、フランスや海外のグループに経営を管理されるということは、どのような意味を持つのでしょうか。

イタリア企業はラグジュアリー・セクターにおいて、世界的リーダーとしての地位を確立できるようになりました。イタリアのハイエンドな企業の多くは家族経営で、先祖代々のアイデンティティーに大変強い誇りを持っています。これはある種の魅力ではありますが、国際的な競争力という点では難しい部分もあります。資金調達能力や、経営プロセスあるいは経営構造の改善、小売の店舗網の拡大や、世界規模での効果的なコミュニケーションといった点で、力不足となるのは否めません。

この点、フランスのグループによって管理されているイタリアのブランドはおおむね成功していると言えます。これにはいくつかの要因が重なっています。第一に、これらのグループの経営幹部は、ラグジュアリー業界を包括的に理解しています。第二に、個々のブランドの独立性を確保し、その伝統や成功の礎となった有形・無形の資産を尊重しています。フランスのグループは、イタリアでの製造体制を維持することで(それによって各ブランドに固有の創造的なDNAを守り)、それぞれのブランドの成功の方程式を保ちながら、ガバナンスや市場でのポジショニングといった点で企業の進化を促しているのです。伝統、革新、そして健全な商慣習のバランスをとることが、私たちが一丸となって取り組むべき課題となっています。