「『ウーマン・イン・モーション』は、カンヌ国際映画祭の中核を担う存在」

ケリングは2015年から、カンヌ国際映画祭のオフィシャルパートナーとして、映画界に貢献する女性に光を当てるプログラム「ウーマン・イン・モーション」を開催しています。今年で5回目となる同プログラムを記念して、カンヌ国際映画祭の会長を務めるピエール・レスキュールと、ケリングのチーフコミュニケーション兼イメージオフィサーであるヴァレリー・デュポールが、これまでの軌跡と今後の展開について語ります。

2015年に発足した「ウーマン・イン・モーション」の始まりはどのようなものでしたか?

ピエール・レスキュール:「ウーマン・イン・モーション」が発足した2015年、私はカンヌ国際映画祭の会長に就任し、極めて貴重な瞬間に立ち会うことができたと感じました。カンヌのラ クロワゼット通りに面しているホテル・バリエール・ル・マジェスティック・カンヌの最上階で、カンヌ国際映画祭の開催中にケリングが主催する「ウーマン・イン・モーション」トークは、映画界における女性の地位や諸問題について議論し合う絶好の機会であり、素晴らしい取り組みだと思います。特に印象に残っているのは、賃金の男女平等を目指す活動に伴う困難やハリウッドにおいて女性としてキャリアを確立することの難しさを訴えた、ジョディ・フォスターのトークです。こうしたトークは女性の地位や権利の向上を訴えるだけでなく、これまでタブー視されてきたテーマについて、オープンな議論の場を提供しているのです。ケリングは、女性を取り巻く諸問題についての議論と意識啓発を促し、こうした問題の是正に大きく貢献してきました。ケリングの取り組みは、多くの人々にインスピレーションを与えていることでしょう。

ヴァレリー・デュポール:すべては、カンヌ国際映画祭主催者と、ケリングの会長兼CEOであるフランソワ=アンリ・ピノーとの話し合いから誕生しました。グループの舵を取る経営陣には、常に女性が多くいました。ケリングにとって、人々の考えや行動に大きな影響を与える映画は、女性に関する諸問題に対するグループの活動を文化および芸術分野にも広める絶好の機会でした。それは単に、ロゴをポスターに載せるだけでは不十分です。私たちは、本当に意味のある成果をもたらしたいと考えていました。こうした考えも相まって、「ウーマン・イン・モーション」の発足は必然的な流れでした。

同プログラムの発足から現在に至るまでの成果を教えてください。

ピエール・レスキュール:「ウーマン・イン・モーション」は、一連のスキャンダルが明るみになるずっと前から、格差や待遇差別といった女性たちを取り巻く問題に光を当て、懸命な取り組みを続けてきました。同プログラムが発足したのは、ハーヴェイ・ワインスタインが告発される3年前のことです。その後、「#MeToo」運動や「TIME’S UP」運動をはじめとしたセクシャルハラスメント撲滅運動によって、映画産業における女性の地位向上だけでなく、あらゆる業界における女性に対する暴力根絶のための活動へと発展していきました。人々はこの問題をさらに詳しく追求するようになり、過去72年間でカンヌ国際映画祭の最高賞に選出された女性監督の数が男性監督に比べて極めて少ないこと、映画界の様々な職業や分野における賃金の男女格差など、女性が置かれている不条理な実態が明らかになりました。「ウーマン・イン・モーション」は発足以来、こうした問題について議論を交わす場を提供し続けています。

ヴァレリー・デュポール:男女平等の実現は今や世界全体の課題となっており、人々の生活のあらゆる面に波及しています。そしてようやく、事態は動き始めたのです。この問題に対する人々の意識を変えたことは、大きな前進です。また、同プログラムのヤング・タレント・アワードを通して、若く才能ある女性監督による映画プロジェクトの製作資金を援助できることを大変誇りに思います。私たちは先日、現状に慢心することなく、男女平等の実現に向けたさらなる取り組みを推進するべく、パートナーシップをさらに5年間更新することを発表しました。私たちの活動はまだ、道半ばにあるのです。

ピエール・レスキュール:パートナーシップの更新は、10年という長い期間にわたって、この問題に共に取り組んでいくという私たちの絆と決意を表しています。このコラボレーションには、非常に大きな意味があります。同プログラムの成果を振り返ってみると、世界最大級の映画祭という場で、映画界に貢献している女性に光を当てることで、事態が一変したと感じています。

Valérie Duport - Pierre Lescure

男女の割当制は必要だと思いますか?

ピエール・レスキュール:はい、割当制は理にかなっていると思います。割当制によって男女格差の是正を図るためには、それぞれ適切な人数を割り当てる必要があります。カンヌ国際映画祭の総代表であるティエリー・フレモーは、選考委員会が男女同等の比率で構成されるようにすると発表しました。今年は審査員が男女各4名ずつ選任され、審査員長はアレハンドロ・イニャリトゥが務めます。この制度の誕生は、男女平等を訴える活動の賜物であり、適切な方法でやり遂げる必要があるのです。

ヴァレリー・デュポール:私は当初、この制度に反対でした。しかし今は、真の変革を実現するためには必要なものであると感じています。割当制がなければ、女性監督は男性監督と対等な予算を獲得することはできないでしょう。この制度の真意は、こうした男女格差の是正にあるのです。映画界における男女平等が達成されれば、この制度を廃止することができるのです。

これまでの「ウーマン・イン・モーション」において、最も印象に残っている出来事は何ですか?

ヴァレリー・デュポール:「ウーマン・イン・モーション」全体について言えば、年々同プログラムの重要性が高まっており、カンヌ国際映画祭の中核を担う存在となったことは、大変感慨深いものがあります。

特に印象に残っている出来事を1つ挙げるとすれば、2018年のカンヌ国際映画祭において、ホテル バリエール ル マジェスティックで同プログラムに参加した82名の女性たちが集結し、世界中が注目する中レッドカーペットを歩いたことです。この出来事はまさにシスターフッドの精神(女性たちの結束)を体現したものであり、人々に多くのエネルギーを与えました。

ピエール・レスキュール:アニエス・ヴァルダとケイト・ブランシェットを中心として、業界のアイコンから新人、著名人に至るまで、有名無名を問わず映画界のあらゆる職業や分野の関係者を代表する総勢82名の女性たちがレッドカーペットの階段を上ったときは、そのシスターフッドの精神に大きな感銘を受けました。この歴史的なムーブメントは、1年以上経った現在も多くの人々にインスピレーションをもたらしています。彼女たちの写真は、世界中に公開されたのです。また、2016年にケリングが主催した第2回「ウーマン・イン・モーション」のオフィシャルディナーにて、スーザン・サランドンとジーナ・デイヴィスが「ウーマン・イン・モーション」アワードを受賞したことも印象に残っています。この2人の女性は、映画を通して自由を追求する女性のパワーを表現しました。彼女たちは努力を惜しまない偉大な役者であり、今後もその使命を果たすべく邁進することでしょう。

最後に、今後の大きな目標を教えてください。

ヴァレリー・デュポール:2人目のパルム・ドール(カンヌ国際映画祭の最高賞)受賞女性監督を誕生させることです。

ピエール・レスキュール:2期目のパートナーシップが満了するまでに(そして3期目の更新を行う前に)、「50/50」という不可逆的な男女比を達成し、新たなイニシアティブを展開したいと考えています。私たちの活動はまだ道半ばであり、その勢いは衰えることを知りません。しかし、男女平等への道のりは決して平坦ではありません。より一層の努力とコミットメントが不可欠なのです。

Photo credit : Benoit Peverelli