「高級ブランドは店舗で顧客に心から語りかける」

デルフィーヌ・ヴィトリーは、コンサルタント企業マッドネットワークの共同創設者として指揮を執り、ラグジュアリー市場における変化を分析しています。過去10年間、ブランドがオムニチャネルでのカスタマー・エクスペリエンスを提供する手助けをしてきました。ここでは、彼女が高級ブティックのデザインにおける現在のトレンドをご紹介します。

Boucheron Boutique
Delphine Vitry
Co-founder - MADnetwork

ラグジュアリー市場における最大のトレンドは何ですか?

デルフィーヌ・ヴィトリー:ラグジュアリー品は長きに亘り顧客サービスへの対応が遅い売り手市場でした。しかし現在、デジタル化や国際化が進むことでお客様の側も進化し、業界において急速な変化が続いています。ブランドは顧客が方向付けられるべきではありませんが、お客様やその期待を正しく理解することは極めて重要であり、新しい店舗のコンセプトにカスタマー・エクスペリエンスを取り入れなければなりません。

ラグジュアリー業界における2つ目の挑戦は、デジタル技術を最大限活用することです。デジタル機器は道具に過ぎず、それのみで完結するものではありませんが、お客様が購入に至るまでのプロセスを定義する上で根本的な役割を担っています。さらに踏み込んで、データを収集し正しく対処することで、各ブランドは、この先、競合他社に一歩先んじることができます。

3つ目の大きなトレンドとしては、ブランドは今日、環境的・社会的活動の積極的関与を避けては通れないということです。お客様が買い物をするにはそのブランドに価値を見出す必要があります。ブランドは明確に定義した1つのミッションを打ち出し、社内の雇用から顧客に対する店舗体験に至るまで、社内外での行為が必ずそのビジョンに沿っていなければなりません。

どのように店舗デザインに落とし込むのですか?

ブランドが望む体験イメージに合ったお店のデザインは、カーペットの色を変えるだけでは不十分なのです!例えば、顧客が座る場所を店員のテーブル越しではなく、隣にするのであれば、室内の配置やテーブルの形状を変えなければなりません。しかしインテリアデザインの中には、紛れもなく時間がかけられたデザイナーの傑作と呼べるものがあります。1つの店舗で採算が取れるまでには5年を要し、また新しいコンセプトを形にするには少なくとも1年かかります。ラグジュアリー市場、とりわけ高級ジュエリーでは取引の大半が今もなお、オンラインではなく実店舗で行われています。ファインジュエリーの状況は特殊で、取引の大部分がイベントや主要なバイヤーとの商談において行われます。とはいえまだ、店舗はそのブランドや専門的な情報を説明する場としての役割を果たしています。

現在では、より複雑で的を絞ったコンセプトの店舗セットアップを行うような戦略が進化しています。現代のブランドは顧客の数に基づき、よりセグメント分けされた空間を持つ旗艦店を中心にネットワークを組織しています。ポップアップ・ストアの数も増えており、その目的(ひいては業績評価指標)はプロジェクトごとに様々で、市場テストから新商品発売、ブランドの世界観の共有まで多岐に渡ります。

店舗デザインにおいて、どのように顧客体験を鑑みていますか?

顧客を獲得するために行う手法と、小規模の旅行団体客に対する販売手法は異なります。現代のブランドでは、こうした様々な顧客タイプに合わせた空間を演出するよう心がけています。わずか5年前でさえ、ハイジュエリーは店の後方に隠されているのが主流でした。しかし今は3,000ユーロの指輪を購入するお客様がダイヤモンドのネックレスも一緒に見たくなるかもしれません。店舗を訪れる人々は感動を求めているのです。パリ・ヴァンドーム広場のブシュロン旗艦店が提供するのはこのようなアイディアなのです。新しいカスタマー・エクスペリエンスとして、ブランドとその常連、店員と顧客との間の距離をなくすことをこのエクスペリエンスでは追及しています。

その他の興味深いモデルをいくつか挙げていただけますか?

カスタマー・エクスペリエンスの観点において、ニューヨーク・ソーホーにあるグッチのブティックは大変刺激的な例です。活力や喜びなどのブランドが持つ明るい価値観を体現しています。こうしたことがお客様を旅へと誘い込むような店舗のレイアウトに反映されているのです。ダークスーツを着たガードマンに代わって、グッチの世界へとゲストを案内する「コネクター」が配され、ブランドコンテンツが3D映像で流されています。近年では、ラグジュアリー部門は言語面でも変化し、ホテル業界に学んだコンシェルジュなどの新しいサービスが導入されています。

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新世代の消費者によって状況は変化していますか?

今日では、同等の購買力を持つ30歳の中国人男性とニューヨークやパリの若者が持つ共通点の方が、血の繋がった中国人の男性と彼の祖父が持つ共通点よりも多いといえます。若者の方が色々とつながっているとはいえ、ブランドが順調に成長していくためには繰り返し購入してくれる顧客を確保する必要があります。顧客は、主に実店舗における対面での接客を通して獲得されます。販売員の丁寧な接客は、顧客にとって特別な時間の中で買い物する事になるのです。ブランドは今なお、オンラインではなく実店舗においてこそ、心からお客様に語りかけることができるのです。それはまさにブシュロンのパリ・ヴァンドーム広場のブティックが体現していることなのです。